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スタートアップの芽を絶やすな!政府・自治体が経済再生局面で支援強化へ

新型コロナウイルス感染症拡大による世界経済の低迷が深刻化している。行政による産業政策も停滞しているが、コロナ後も見据えて取り組む必要があるのがスタートアップの育成。2020年7月には政府が「スタートアップ・エコシステムグローバル拠点都市」に首都圏、中部圏、大阪市・京都市・神戸市、福岡市の各コンソーシアムを選んだほか、自治体でも経済再生局面で新ビジネスを起こすスタートアップを支援する機運が高まっている。

東京 「シビックテック」支援

21年の東京都のスタートアップ支援に、行政が積極的に技術やアイデア、ビジネスモデルを取り入れる「シビックテック」が加わる。西新宿(東京都新宿区)に27日、シビックテックを支援する拠点を新たに開設。同地域でスタートアップを中心にした企業との7件の実証実験も実施する。

都は20年にスタートアップがビジネスプランを提案し、競うピッチコンテスト「UPGRADE with TOKYO」を9回実施した。新たな拠点はこうしたコンテストやイベントの常設会場とする。また各回の優勝者をはじめ都行政と都民の利便性向上に貢献できるスタートアップが多数存在するため、協働を具体化する打ち合わせの場にする。

実証実験は7件のうち4件がスタートアップ単独、1件がスタートアップと大企業共同。西新宿は高層ビルが立ち並ぶ都内有数のビジネス街で、スタートアップは多数のデータを得てビジネス経験を積むことができる。

京都・大阪・兵庫 枠組み超え協働の動き

京都府、大阪府、兵庫県の3府県は20年7月、地域としてグローバル拠点都市の選定を勝ち取り、25年の「大阪・関西万博」に向けて協働の動きを強めている。地域ごとの歴史特性や産業を生かしたスタートアップの育成により、24年までのユニコーン5者創出、大学発スタートアップ倍増(18年比)を目指す。

グローバル拠点都市としてスタートアップ育成にも力を入れる(大阪・関西万博のイメージ)

また関西経済連合会は企業と大学の出会いの場を創出する「起業街道・関西プロジェクト」をスタートしたほか、関西の産学連携における重点支援を近畿経済産業局と始めるなど、財界を中心とした官民連携の動きも活性化している。研究機関の集積地である立地を生かし、25年までに、持続可能な成長で社会課題を解決する「ゼブラ」企業10社の創出を掲げる。

春には三菱UFJ銀行などが国内最大級のイノベーション創出拠点を大阪市内に設立する計画も進む。東京のように豊富な資金源がない関西で、地域や枠組みを超えた連携が重要度を増している。

名古屋・浜松 地域代表する20社選定

愛知・名古屋、浜松地域では中部経済連合会と連携し、同地域を代表する将来有望なスタートアップ「Jスタートアップセントラル」を20社程度選定した。各自治体で支援を充実させつつ、連携したスタートアップ・エコシステムの形成を目指す。

ほかにも、愛知県はスタートアップ創出を目的に「AichiStartupビジネスプランコンテスト」を開催。優勝者には設立事業準備金を支援する。海外との交流機会も設けており、シンガポール国立大学や中国の清華大学などと連携強化を図っている。

名古屋市は、なごのキャンパス(名古屋市西区)やナゴヤイノベーターズガレージ(名古屋市中区)など各インキュベーション施設をつなぐ「共創コーディネーター」を設置。施設間の連携を図り、地域全体の成長を目指す。20年度内をめどに、名古屋の起業家向け施設や大学などを英語で紹介する「スタートアップガイド」を発行予定。日本では東京に続く2例目となる。

なごのキャンパス1周年記念イベント

沖縄 起業家と大手橋渡し

スタートアップやベンチャーが直面する企業規模の壁。業容拡大を目指す中で、企業に販路開拓や技術相談を持ちかけても相手にされないことがある。そこで沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO、那覇市)は、起業家と大手企業を橋渡しする「沖縄ベンチャーフレンドリー宣言」をまとめた。

沖縄ITイノベーション戦略センターが地場大手企業とまとめた「沖縄ベンチャーフレンドリー宣言」

沖縄電力や沖縄セルラー電話、地銀など上場、地場大手の賛同により36社・団体で立ち上がった。「ゆいまーる(助け合い)」精神で「信用のお裾分け」(企画書)をして、オープンイノベーションを推進する狙いだ。

ISCOは沖縄県、那覇市などが設立し、企業のIT化や起業家支援に取り組む組織。今回は関西経済同友会による18年の宣言を手本にした。

「宣言」は実効性も持つ。相談を受けた事務局が相乗効果を生み出しそうな大手をマッチング。スタートアップの後押しだけでなく、新技術を取り入れたい大手側のメリットにもなる。ウィン・ウィンの関係を築きつつ、地域の活性化につなげる。

DATA/国内の開業率低迷続く

政府・自治体がこぞってスタートアップの支援に動きだす一方で、かねて問題になっているのが国内における開業率の低迷だ。20年版中小企業白書によると、18年度の開業率は4.4%で減少に転じた。海外と単純に比較することはできないが、開業率が英国は13.6%(17年度)、米国10.3%(16年度)、フランス10.0%(17年度)、ドイツ6.8%(同)で、日本の開業率の低さは先進国の中では際立っている。

都道府県別(18年度)で東名阪を見ると東京都は5.0%、愛知県は5.1%、大阪府は4.6%で、国全体の水準は上回っているが、決して高いとはいえない。

国内の開業率は80年代後半には7%台だったが、現在は半分近くにまで低下している。開業率を高め、産業の新陳代謝を促すためにも、手続きの煩雑さや資金調達の多様性確保など構造上の問題解決が重要だ。

KEYWORD スタートアップ

スタートアップは国内ではベンチャーと同義の意味で使われることもあり、実際には明確な定義はない。米シリコンバレーを中心とするスタートアップのコミュニティーに詳しく、こうした企業に投資する米Yコンビネーターの設立者でもあるポール・グレアム氏は“急成長を目指す企業”と位置付けている。また既存の技術、製品、サービスではなく、革新的な手法、新しいビジネスモデルを用いるのが一般的な起業との違いとされる。

日刊工業新聞2021年1月4日

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