JDIが再起へ、革新起こす「ディスプレー新技術」の全容
ジャパンディスプレイ(JDI)が新開発のディスプレー技術をテコに反転攻勢をかける。スマートフォン向け液晶パネル市場の縮小などで経営危機に追い込まれ、いちごアセットマネジメントの出資を受けてから約2年。「世の中に存在しないモノを作る」との決意のもと、次世代有機EL(OLED)ディスプレーの「eLEAP」と高性能ディスプレー制御技術「HMO」を生み出した。ディスプレー業界に革新を起こし、再起を狙う。(編集委員・錦織承平)
次世代有機EL「eLEAP」 輝度2倍・寿命3倍
ディスプレーパネルの製造では、バックプレーンと呼ばれる画素駆動用の薄膜トランジスタ(TFT)回路の上に、フロントプレーンと呼ばれる液晶セルやバックライト、OLED発光層などを組み合わせる。JDIが5月に発表したのはeLEAPと呼ぶ次世代OLEDのフロントプレーン技術と、HMO(ハイモビリティオキサイド)という多結晶酸化物半導体を使った高性能なバックプレーン技術だ。
eLEAPは、ガラス基板上に蒸着した発光層の不要な部分を半導体の回路形成に使われるフォトリソグラフィの技術で取り除く方法で画素をつくる。従来の蒸着工程で使われてきたファインメタルマスクが不要になり、マスクの大きさにより制限されてきたガラス基板を大型化することができる。加えてフォトリソによる微細加工で、1画素の中の赤青緑の発光層の面積を増やせる(開口率が上がる)ため、画素の輝度向上や寿命の延長が可能になる。
高性能制御技術「HMO」 G10サイズまで拡大可能
パネル生産時のガラス基板は現在の第6世代(G6)から、より生産効率の高い第10世代(G10)まで拡大可能で、性能面では輝度を2倍または寿命を3倍に延ばせるという画期的な技術だ。スコット・キャロン会長兼最高経営責任者(CEO)も「ゲームチェンジャーとなる新たなデファクトスタンダード技術」と強い自信を示している。
一方、バックプレーン向けのHMOは、出光興産が開発したPoly―OSという酸化物半導体の多結晶膜を使ってJDIが独自開発した。従来の酸化物半導体の低消費電力と、低温ポリシリコン(LTPS)の高速動作という二つの特徴を両立。ガラス基板サイズはLTPSの上限だったG6を、G10まで拡大できる。さまざまなフロントプレーンと組み合わせられ、高精細と高速動作が求められる仮想現実(VR)デバイス用ディスプレーなどを作ることも可能だ。
VR用などで黒字転換へ
JDIは主要顧客の米アップルがスマホ用パネルを液晶からOLEDに転換していったことなどで苦境に陥り、連結決算は15年3月期から8期連続の当期赤字が続く。20年にいちごアセットマネジメントの出資を受けて、キャロンCEOの下、経営再建の途上にある。調査会社オムディアによれば18年に中小型液晶パネル市場で出荷額首位の16・3%を占めていたが、21年は同8・7%の5位まで後退した。同社売上高に占めるスマホ向けの比率は21年度に約40%まで低下しており、今後、車載用やVR用、スマートウオッチ用OLEDなどを伸ばすことで、24年3月期の営業黒字転換を目指している。
新開発のeLEAPは主力工場の茂原工場(千葉県茂原市)で23年度中にも量産を始める計画だが、HMOとともに同業他社への技術供与を並行して進める考え。G10のような大型パネルを使う量産は他社と協力する方針で「すでに複数社と交渉を始めている」(キャロンCEO)。技術が新鮮で競争力があるうちに市場を広げ、自社は次の新技術に力を注ぐ―。こうした好循環で安定成長を目指す。