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デンソーはなぜ農業事業の育成を本格化するのか

デンソーはなぜ農業事業の育成を本格化するのか

大規模ハウスではAGVがフル稼働

デンソーが、農業事業の育成に本格的に乗り出した。その主戦場が自動車部品事業で培った生産技術をフル活用し、効率化と高収益化を図る大規模農場だ。数年後には収穫ロボットなどを導入し、24時間稼働の農場の実用化を目指す。生産だけでなく物流、消費の領域でも需給管理など自動車のノウハウを生かしていく。(名古屋・政年佐貴恵)

三重県いなべ市に立地する大規模ハウス。約4・2ヘクタールの広大な農場に整然と植えられたトマトの間を、収穫したトマトや収穫後の余分な葉や茎などを積んだ計7台の無人搬送車(AGV)が行き交う。AGVは収穫量や在庫状況、作業の進捗(しんちょく)データと連動しながら、自動で最適稼働する。デンソーフードバリューチェーン事業推進部の清水修担当部長は「工業化の考えを導入して農業を変えたい」と力を込める。

「アグリッド」が運営する農場では作業指示や勤務管理にタブレット端末を活用

この農場は同社が農業法人の浅井農園と共同出資したアグリッド(三重県いなべ市)が運営しており、2019年からトマトの生産を始めた。ミニ、中玉、大玉の3種類を栽培し、年1260トンを収穫している。トマトは糖度など食味で差別化しやすく、市場外取引が7割以上を占めるため収益性が高い。ここにデンソーが自動車部品工場で培った生産管理システムや生産技術を導入することで、一層の高収益かつ作業負担を軽減する農業プラットフォーム(基盤)の構築を狙う。

次世代農業の軸となるのがデジタル変革(DX)と、生産から出荷までを管理する生産統合管理システムだ。同システムは生産量や出荷量に合わせて中間在庫を調整しながら、AGVの運行指示や、収穫作業指示などを行う。AGVで運ばれたトマトは自動計量され、収穫順に中間在庫置き場に配置、出荷される。清水担当部長は「統合生産管理システムを農業に導入する事例は他にないのでは」と自負する。

また従業員の作業内容は全てタブレット端末で指示する上、勤務シフトは最短1時間の単位で各自のスマートフォンから登録できる。作業説明の時間短縮につながるほか、隙間時間を活用でき、柔軟な働き方が可能だ。出荷場では、からくりを使った棚や、箱や袋詰めの際に作業状況やトラブルをランプで知らせる「アンドンシステム」といった、製造業ではおなじみの仕組みも取り入れている。

デンソーは6月に定款変更し、農業関連の項目を事業目的に加えた。清水担当部長は「ようやく農業事業のめどが立ち、本気で進めることを示した」と説明する。生産だけでなく物流や消費まで、既存技術を生かしながら「食」の分野で一気通貫の好循環を生み出し、新規事業の柱にしたい考えだ。


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日刊工業新聞2022年8月23日

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