女性の躍進を妨げる「無意識の偏見」を打破する解決策
管理職育成、多様性が競争力に
女性活躍推進法が2015年8月に成立し、8月で8年目を迎える。この間、女性の就業率は増えているものの、管理職の割合は約13%と低く、諸外国と比べて立ち遅れている。外部環境が大きく変わる中、企業が競争力を強化・向上していくには多様な人材の活躍が欠かせず、女性が活躍しやすい組織づくりも重要となっている。その課題と解決策を探った。(幕井梅芳)
世界経済フォーラムが22年7月に公表した「ジェンダーギャップ指数2022」によると、日本は146カ国中116位となった。前年の120位からわずかに順位を上げたものの、主要先進7カ国では最下位となった。特に国会議員の女性割合の少なさなど政治分野の格差は大きく、経済分野も前年より順位を下げた。
内閣府の「2021年版男女共同参画白書」によると、日本の就業者に占める女性の割合は44・5%で、管理的職業従事者に占める割合は13・3%。30―40%程度の諸外国と比べて著しく低く、リーダー的立場にいる女性の少なさが目立つ。
なぜ日本では女性活躍が進まないのか。「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が存在する」という見方が専門家の声で多い。「女性は家庭にいて、育児や家事に専念すべき」という考え方が高年男性を中心に根強いとの見方だ。
こうした考え方は日本だけの問題ではない。米国で行われた研究によると、大学の理系科学部の研究職採用において応募者の履歴書の内容が全く同一であるにもかかわらず男女間の差が存在する。例えば履歴書の名前が男性(ジョン)であるか、女性(ジェニファー)かによって、大学側の能力評価や初任給の提示額が異なってくる。
また応募者が男性の場合、能力評価の平均は約4ポイントだが、女性の場合は約3ポイントにとどまる。給与提示額も評価者が男性の場合、男性の応募者には約3万ドル、女性の応募者には約2万7000ドルが提示された。
リーダー級の優秀な人材確保 企業の業績向上に効果
女性活躍について、日本総合研究所の小島明子スペシャリストは「女性就業者の数を増やすことは大事だが、それ以上に管理職などの責任あるポジションで活躍できる女性を増やすという質的な問題を解消する必要がある」と強調。質と量の両面での取り組みの必要性を説く。
こうした取り組みに着手しているのが、女性の活躍を支援する村上財団だ。「世界の潮流から取り残されている日本の状況を少しでも変えていけたら」(同財団の村上玲代表理事)と、女性リーダーの養成プログラムを立ち上げ、4日に募集を始めた。
企業からは、なぜ女性の管理職登用を進めていかないといけないのかといった声を聞く。これに対し、フロンティア・マネジメントの上山聡子マネージング・ディレクターは、「企業パフォーマンス(業績)の向上と今後の人材確保の必要性の2点がある」と指摘する。
企業業績の向上については、大和総研の「因果推論による『なでしこ系企業』の真の実力」(19年)によると、女性活躍度が高い企業ほど、ROA(総資産利益率)の上昇幅が大きく、効果は年数が経過後の方が高い、といった結果がある。男性の労働力人口が減少し優秀な人材確保が難しくなることが見込まれる中、これまで十分でなかった女性の採用強化と人材流出の防止が欠かせなくなってくる。
男性育休推進も一助に
企業が女性活躍を進めていくには、どう取り組んでいくべきか。大きな課題の一つであるアンコンシャス・バイアスについて、「研修などを通じて現状を理解したうえで、管理職は部下の女性の育成・指導を行うべき」(小島スペシャリスト)とし、その存在を見える化することで、意識を変えていくことを提言する。
男性の育児休業の取得を進めていくことも解消につながるといった指摘もある。育休は育児との両立の始まりで、その経験に男女差があると家庭や企業における性別役割分業意識の形成につながりかねない。このため、取得したいと考えている男性が取得しやすい環境づくりと、企業として取得したいと思えるような働きかけも必要になる。
男性の育休取得を進めていく上では、経営陣のコミットメントが重要だ。中長期的に優秀な人材や企業価値の向上のために、多様性のある誰もが活躍できる(皆が育休を取得しやすい)組織づくりが不可欠なためだ。現場として、限られた人員で方針に対応するため、生産性向上に取り組むことが求められる。