トヨタの工場停止が引き金?サイバー保険の加入が急増している
サイバー保険へ加入する事業者が急増している。主要な損害保険会社のサイバー保険の契約件数は4―6月期に前年同期比4―8割増と伸長。2021年同期は、同1割未満―3割増の伸び率だったため増加が顕著だ。背景には、4月の改正個人情報保護法の厳格化に加え、トヨタ自動車が主要取引先のサイバー攻撃の影響で国内全工場が止まったインパクトが大きいとの声がある。(大城麻木乃)
サイバー保険は、情報漏えい事故やサイバー攻撃があった際に通信機器の復旧や被害者から訴えられた場合の訴訟費用などを幅広く補償する新種保険。あいおいニッセイ同和損害保険は、この保険の22年4―6月期の契約件数が同8割増と、21年同期の同1割未満の増加から大きく伸びた。トヨタの一件を受け、「取引先に迷惑をかけてはいけないと加入する企業が増えた」(サイバー保険室の神山太朗室長)という。
同社は事業者のサイバーリスク評価を行い、対策が必要な企業には提携先のセキュリティー会社を紹介。適切な対策を講じると、保険料を最大約6割割り引く。「攻撃の予防策も支援する」(神山室長)ことで、受注を一段と伸ばす。
三井住友海上火災保険は、契約件数が21年4―6月期の同2割増から22年同期は同4割増に伸びた。4月の改正個人情報保護法の施行により、個人情報を扱う事業者は1000件を超える情報漏えいがあった場合、本人への通知が義務化されるなど、責務が重くなった。事故が起きた際、被害者へのわび状送付費用などもサイバー保険でカバーできることが多い。同社は「法改正は保険提案の好機」(サイバー・ビジネスリスクチームの宮野友和チーム長)と捉え、提案営業の強化で契約増につなげている。
損害保険ジャパンは、契約件数が21年4―6月期の同2割増から22年同期は同5割増に拡大。中小企業の場合、売上高30億円未満で年間の保険料は平均10万以下となり、「保険料がまだ割安と捉えられるケースが多い」(同社)ことも普及の一因と見る。
東京海上日動火災保険は、サイバー保険の保険料収入がこの数年、前年比2ケタ増で推移する中、「4月以降はさらに伸びている」(サイバー室の宮寺翼担当課長)という。同社は事故発生時の緊急処置や対応計画の策定、再発防止策の提案までの一連の流れを支援する「インシデントハンドリングサービス」を4月から無償提供。補償以外の付加価値も付けることで、顧客を増やす。
今年3月以降、不正メールから感染するウイルス「Emotet(エモテット)」が爆発的に流行し、損保の代理店の中にも感染事業者が出現。代理店にとっても身近な脅威となり、「サイバー保険を顧客に真剣に売るようになった」(損保業界関係者)ことも、伸びている一因との声もある。
かつては個人情報を扱う行政や大企業などが攻撃の対象となりやすかったが、最近は中小企業にも被害が拡大。警察庁によると、身代金要求型ウイルス「ランサムウエア」の場合で、21年度に被害の報告を受けた企業の過半が中小企業だった。大小問わず、すべての事業者が対策を迫られており、今後もサイバー保険の契約件数は増え続けそうだ。