文化資源に先端技術、ベンチャーが推進する「観光DX」
夏の余暇シーズンを前に、ベンチャーの持つ先端技術を観光資源や文化資源に取り入れた新たな文化観光の在り方が広がっている。見学が難しい文化財の内部を高精細な映像でデジタルコンテンツとして再現したり、全地球測位システム(GPS)を活用したコンテンツで楽しみながら史跡などを周遊できたりとさまざまだ。経済活動の正常化に向け、旅行市場の回復への動きが進む中、ベンチャーが観光分野のデジタル変革(DX)推進に一役買っている。(山下絵梨)
一旗(名古屋市西区、東山武明社長)は、徳川家康生誕の地にある徳川将軍家の菩提(ぼだい)寺・成道山大樹寺(愛知県岡崎市)を、4Kや8Kを超える超高精細な12Kで撮影した「徳川将軍家菩提寺 成道山大樹寺 12K」を公開した。大樹寺はかつて、桶狭間の戦いで敗れた家康公が逃げ帰り、自害を試みた際に、住職から「太平の世を目指す」教えを受けて思いとどまったと伝わる、歴史的に大きな役割を果たした寺だ。
非公開の国指定重要文化財・冷泉為恭(岡田為恭)筆大方丈障壁画をはじめ、松平八代・徳川歴代将軍位牌(いはい)、国指定重要文化財の多宝塔、愛知県指定文化財の三門など、大樹寺の貴重な文化財の数々を12Kで記録し保存すると共に、4Kの観光プロモーション映像として公開した。
「新時代の夏祭り」をテーマに、ネイキッド(東京都渋谷区、村松亮太郎社長)はデジタルアートを活用し、日本三大稲荷である豊川稲荷(豊川閣妙厳寺、愛知県豊川市)の夜間参拝を演出する。夏の特別期間中に開催する「日本三大稲荷・豊川稲荷×ネイキッド YORU MO―DE(ヨルモウデ)」で、豊川が発祥地である手筒花火をモチーフにした映像で寺宝館をマッピングしたり、約1000体のキツネ像が奉納されている霊狐塚や参道などをライトアップで演出したりする。夜になると蓄光で光り輝くマスクアイテムもそろえるなど「詣でながら夏祭りの雰囲気を感じられる」(同社)新たな体験を演出する。
膝栗毛(東京都千代田区、米田大典社長)は、スマートフォン向け歩き旅アプリケーション(応用ソフト)「膝栗毛―HIZAKURIGE」内で、歩きながら地域の特徴を知ることができるGPS連動型「音声ガイド」のコンテンツを提供している。同アプリは固有の歴史や郷土文化などを紹介するデジタルマガジン。ためたポイントでオリジナルグッズやご当地フードなどと交換できる機能も追加するなど「マイクロツーリズムの促進と同時に地域活性化とブランド力の向上につなげる」(同社)狙いだ。