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SDGs債の発行額2.7倍、拡大に一役買う新型たち

SDGs債の発行額2.7倍、拡大に一役買う新型たち

JERAはトランジションボンドで調達した資金を石炭火力発電のアンモニア混焼の実証などに充てる(碧南火力発電所)

環境・社会課題解決を目的に発行するSDGs(国連の持続可能な開発目標)債が、国内で増加傾向にある。SMBC日興証券によると、22年4―6月期に前年同期比約2・7倍の1兆2055億円の発行があった。1000億円以上の大型の起債でSDGs債が増えている。低炭素社会への移行を目的としたトランジションボンド(移行債)など、新たなSDGs債も発行金額を押し上げている。(編集委員・川口哲郎)

公社債に占めるSDGs債の割合は21・2%で、前年度から約10ポイント上昇した。1000億円以上の大型の起債は4―6月期に4件あり、0件だった前年同期から変化がみてとれる。「発行の環境が悪くなっている中でも資金を集めやすいという理由から、SDGs債を選ぶ企業が増えている」(大坂仁彦SMBC日興証券サステナブル・ファイナンス部部長)という。

SDGs債は資金使途によって種類があり、環境関連事業向けのグリーンボンド、社会貢献事業向けのソーシャルボンド、環境・社会双方に関わるサステナビリティボンドなどがある。これら既存の債券に加え、新しい債券も発行金額の拡大に一役買っている。

その一つがサステナビリティ・リンク・ボンドだ。あらかじめ定められた環境目標を達成するか否かによって条件が変化する。発行額は20年度に350億円、21年度に1110億円と伸長し、22年度は6月末ですでに1040億円にまで到達した。NECは二酸化炭素(CO2)排出量削減率の目標などを設定し、7月以降に発行する。

燃料転換や省エネなど、脱炭素への移行に向けた取り組みに対するファイナンスの移行債も発行が急増している。発行額は21年度が500億円で、22年度はすでに1350億円まで拡大した。

5月に条件決定したJERAは200億円を発行し、化石燃料とアンモニア・水素の混焼実証などに充当する。九州電力は550億円を電源の低・脱炭素化などに用いる。資金使途が限定された債券に対し、環境目標の達成状況に応じて条件が変わるトランジション・リンク・ボンドも登場。ENEOSホールディングスは国内初の同ボンドを総額1000億円で発行する。

SDGs債の買い手の需要も高まっている。日銀が金融機関にインセンティブを与えて気候変動関連の投融資をしやすくする制度(気候変動対応オペ)では、サステナビリティ・リンク・ボンドや移行債が対象だ。SMBC日興証券調べで、地銀・第二地銀のうち気候変動対応オペを検討中とする回答が半数を超えた。オペの対象となるSDGs債のさらなる需要増加が期待できる。

世界全体では債券市場全般が低迷し、SDGs債は足元で2割程度落ちている。米利上げによる景気後退の懸念から投資家が慎重になり、利回りが上昇。「コストが上がり、発行をためらう企業が増えている」(同)ためだ。

米国景気の先行きは不透明感が増し、SDGs債の発行環境は向かい風が吹く。一方でSDGsや環境・社会・企業統治(ESG)の視点を経営計画に入れる企業はますます増えている。中長期的には脱炭素やSDGsの実現を金融面から支えるファイナンス市場は拡大し、SDGs債も増加傾向が続きそうだ。

日刊工業新聞2022年7月8日

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