トヨタ、ホンダ…拡大する車のサブスク、受け入れられてきたメリット
自動車各社が、車のサブスクリプション(定額制)サービスを徐々に広げている。コロナ禍において、オンラインで完結する販売手法や手軽にマイカーを入手できるメリットが消費者に受け入れられてきた。一方、自動車メーカーが、同サービスを電気自動車(EV)時代の新たな売り方を模索する“実証の場”として捉える動きも出てきた。(名古屋・政年佐貴恵、西沢亮、江上佑美子)
【トヨタ、若年層を取り込む】利用者20―30代が4割超
車のサブスクのメリットは、一般的なリース契約と比べ短期間での利用が可能な点。定額料金で活用できる「分かりやすさ」も特徴だ。
他の自動車メーカーに先駆けてサブスク市場に参入したのが、トヨタ自動車だ。2019年に保険料や保守費用といった諸経費を月額利用料に盛り込み、手軽に車を利用できるサービスとして「KINTO(キント)」の提供を開始。「所有から利用へ」と価値観が変化している若年層の取り込みなどを狙う。
今では取扱車種数は開始時の6から33に拡大。22年1月末時点の累計申込件数は19年末比約27倍の約3万2000件にまで増えた。利用者層は20―30代が4割超を占め、申込数は月1500―2000件で安定的に推移しているという。キントを提供するトヨタ子会社のKINTO(名古屋市西区)の小寺信也社長は「顧客は初めて車を買う人や、販売店との接点のない人が多い」と手応えを示す。
【ホンダ、展開エリア全国に】新規顧客掘り起こし
ホンダも積極展開する。この4月に、20年に開始した中古車のサブスクサービス「ホンダマンスリーオーナー」の展開エリアを全国に拡大した。20年に1000人程度だった会員登録数は22年4月時点で約3900人に伸びており、エリアや対象車両数の拡大で潜在顧客を掘り起こせると判断した。
同サービスの特徴は、契約期間が1カ月単位(最大11カ月間)と短期間である点だ。「さまざまな車に乗ってみたい」「梅雨の季節のみ自動車で通勤したい」といった消費者の細かいニーズに対応できる。
現時点で利用者の年齢層で最も多いのは50代。40代や60代が続き「ホンダ車の購入層とあまり変わらない。ただ購入者と比べると20代、30代の割合は多く、若年層との接点拡大につながっている」(ホンダ)。利用者の9割が、これまでにホンダ車を購入したことがない人であり、同社は「新規顧客の掘り起こしにつなげたい」と期待する。
ほかに自動車メーカーでは日産自動車やスズキ、SUBARU(スバル)などもサブスクサービスを展開する。足元では半導体や部品不足で生産が滞り新車の需給が逼迫(ひっぱく)。それに伴い中古車の価格が高騰している。消費者の「自動車を気軽に所有したい」とのニーズに応えるため、各社は購入以外の選択肢として、サブスクのサービス拡充や認知度向上を図っている。
【EVの新たな売り方へ“実証の場”】電池の回収・利活用モデル確立
各社がサブスクを広げる背景には、MaaS(乗り物のサービス化)が進む未来に備え、顧客との直接の接点を増やしたいとの意図が透ける。
KINTOは1月、サブスクサービスと保有車、全てのトヨタ車・高級ブランド「レクサス」車を対象に、安全装備や内外装を更新できる「キントファクトリー」を開始。年内には、100色以上から選んで車両の色を変えられる新サービスも始める予定だ。
5月に発売したトヨタ初のEV専用車種「bZ4X(ビー・ズィー・フォー・エックス)」。今はリコールで販売停止中だが、売り方をサブスクに限定することで、車載電池の劣化といった顧客の不安を取り除くと同時に、電池の回収・利活用モデルを確立するための“実験車両”でもある。KINTOの小寺社長は「KINTOというプラットフォームを使い、車を顧客に届けた後でも付加価値を提供できるのが、我々の最大の強み。顧客との接点となるあらゆる部分で(サービス展開を)やりたい」と意気込む。
課題は、車両の売り切りモデルに親しんできた既存ユーザーも含めたサービスの周知だ。現時点では、車の保有形態としてサブスクが浸透しているとは言いがたい。
日本自動車工業会(自工会)の21年度乗用車市場動向調査によると、車の買い替えの際にサブスクの利用を予定していると回答した人は全体の1%にとどまった。またJ.D.パワージャパン(東京都港区)が実施した21年の調査では、車のサブスクサービスを知っていると答えた人は56%に留まった。レンタカーやカーシェアリングに比べると、認知度はまだ低い。