Beyond5G時代に貢献、NICTが挑む「ファイバー無線技術」の高度化
第5世代通信(5G)システムのサービスが開始され、ミリ波無線による毎秒10ギガビット(ギガは10億)以上の高速通信が実現する見込みである。一方、ミリ波無線により通信速度は向上するが、無線送受信機には高速な電子デバイスが必要になり、無線送受信機そのものの消費電力および複雑さが増すことになる。加えて、ミリ波信号は従来の第4世代移動通信システムなどで利用されるマイクロ波に比べて到達距離が短いため、多数の無線アンテナ局が必要であり、無線アンテナ局の低消費電力化と低コスト化が望まれている。
NICTは「ファイバー無線技術」の高度化を図り、ミリ波送受信機を簡素化する技術の研究開発に取り組んでいる。ファイバー無線技術とは、無線信号で光信号を変調することで無線信号を直接光ファイバーで伝送する技術である。NICTは、最初にファイバー無線技術とNICTが開発した超高速受光デバイスにより、光信号を無線信号へ変換するミリ波無線送信機の簡素化を実証した。
次に、ミリ波無線受信機の二つの要素技術を開発し、ミリ波無線受信機の簡素化を実証した。要素技術の一つ目は、無線信号を光信号へ変換する「光・無線変換デバイス」で、強誘電体電気光学結晶(ニオブ酸リチウム)を利用した高速光変調器である。
二つ目は、光・無線変換デバイスから発出される光信号を光ファイバーに直接伝送するためのファイバー無線技術で、遠隔の光局発信号発生器で発生させた光信号を利用し、光・無線変換デバイスで生成される信号周波数を変換する技術を開発した。
私たちは、開発した二つの要素技術を組み合わせて、無線信号から光信号への直接変換を実現し、毎秒70ギガビットを超える高速100ギガヘルツミリ波無線信号を光ファイバー信号へ直接変換する伝送実証実験に成功した。開発した要素技術を利用すると、ミリ波受信機内の消費電力が大きい電子デバイスが不要になり、受信機の簡素化が期待できる。さらに、Beyond 5G時代に多数設置される無線アンテナ局の低消費電力化と低コスト化などに貢献できる。
◇ネットワーク研究所・フォトニックICT研究センター・光アクセス研究室 主任研究員 ファン テイエン ダト
2011年、NICTに入所。以来、マイクロ波/ミリ波フォトニクス、ファイバー無線、光ワイヤレスシステム、および5G以降のシームレスアクセスネットワークに関する研究に従事。博士(理学)。