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電力価格が急騰中でも…安い電気を使ってCO2排出量を減らす工場の正体

電力価格が急騰中でも…安い電気を使ってCO2排出量を減らす工場の正体

PPAで太陽光パネルを設置したカイハラ産業の三和工場

電力価格が急騰する中で通常よりも安い電気を使い、二酸化炭素(CO2)の排出量を減らす工場が登場した。太陽光パネルの電気を長期購入できるPPA(電力販売契約)を利用する工場だ。再生可能エネルギーが普及し、コストが下がってきた恩恵を企業も享受できるようになってきた。(編集委員・松木喬)

カイハラ産業、電力高騰でメリット拡大

デニム生地メーカーのカイハラ産業(広島県福山市)は2021年6月、三和工場(同神石高原町)でPPA形態による再生エネの利用を始めた。工場屋上の出力2200キロワットの大規模太陽光発電所(メガソーラー)が発電した電気をPPA事業者のオリックスから購入している。

その太陽光由来電気の価格は1キロワット時当たり10円以下で、開始当初は電力会社より25%安かった。それが現在では電力会社の電気代が跳ね上がり、価格メリットが拡大している。カイハラ産業は18年間、オリックスから同じ価格で購入する契約を結んでいる。燃料価格に左右されない太陽光発電の利点だ。

PPAは電気を使う需要家と電力事業者が契約する。海外では企業が発電事業者と契約するが、日本は小売電気事業者が間に入ってPPAを成立させる。また日本では「第三者所有モデル」や「初期費用ゼロモデル」と呼ばれる。カイハラ産業の場合、太陽光パネルはオリックスが保有するので三和工場は設備投資なしでCO2排出ゼロの電気を使える。

「10年前から太陽光パネルの導入を検討してきた」。カイハラ産業施設環境管理部の寺田康洋部長はこう打ち明ける。ちょうど10年前の12年7月、再生エネで発電した電気の固定価格買い取り制度(FIT)が始まった。三和工場の屋根は広く、発電事業に適していた。しかもFITを活用して発電した電気を売ると確実に投資回収でき、収入も見込める。しかし「売電ではなく、自分たちで使う自家消費にこだわっていたので費用対効果から導入に踏み切れなかった」(寺田部長)という。環境に配慮して操業している証拠として再生エネを利用してCO2を削減した実績を地域に示したかった。

カイハラ産業にはオリックスを含め8―9社から太陽光パネル設置の提案があったという。リース方式もあったが、初期費用なしのPPAを選んだ。さらに複数のPPAの提案からリスクの少ない条件に絞った。

その条件の一つが、工場の操業にかかわらず、決まった電力量を買い取る最低使用量だ。契約期間中、予期せず操業が停止する事態も想定されるため、最低使用量の低い契約を選んだ。また、契約終了後の太陽光パネルの扱いも各社の提案を吟味し、融通が利く条件にした。

太陽光発電の自家消費は、国内だけでなく海外の取引先からも好評という。特に欧州の取引先は環境対策への要求が高く、良いPRになっている。PPAの供給で不足する電気は、電力会社から購入して補っている。今後、なるべく排出量の少ない電気を選び、グループ全体の排出量を30年には18年比30%削減する。

製造業に普及拡大 「オフサイト型」も導入増

PPAは製造業に広がっている。太平洋工業は1月、自動車用プレス製品を製造する栗原工場(宮城県栗原市)でPPAをスタートし、工場に設置した太陽光パネルの電気を使っている。化学品メーカーの大倉工業は23年1月から、本社内(香川県丸亀市)に四国電力が設置した太陽光パネルからの電力供給を受ける。

敷地内の発電設備の電気を活用する「オンサイト型」に加え、敷地外から供給を受ける「オフサイト型」PPAの導入も増えている。花王は兵庫県や奈良県、静岡県の太陽光発電所の電気を購入し、本社(東京都中央区)で使う。第一生命保険も22カ所の太陽光発電所から供給を受け

る。

またアマゾンジャパンは21年9月、首都圏や東北に建設する450以上の太陽光発電所から電気を調達する契約を三菱商事と結んだ。23年にすべてが稼働すると5600世帯分を賄える発電量となり、日本最大のPPA事業となる見込みだ。

現状でも政府が管理する非化石証書が付いた電気の購入で再生エネを利用できる。しかし、電気代に加えて非化石証書の価格も変動する。PPAは購入価格が決まっているので価格変動リスクを回避できる。発電事業者も電気の売り先が決まっているので、発電所の建設を判断しやすい。

自然エネルギー財団(東京都港区)の石田雅也シニアマネージャーは「屋根に太陽光パネルを設置できれば、オンサイト型の電力単価は確実に下がる。オフサイト型は組み合わせによって電力全量を再生エネにできる。また、再生エネ発電所の新設に貢献できる」と利点を説明する。

PPA事業者の認識は同じだ。オリックス電力事業部の周藤隆晃副部長は「太陽光パネルのコストが系統電力を下回るグリッドパリティーに入った。CO2削減対策としても各業界で関心が高まった」と手応えを語る。現在、同社には21年度に比べ5倍の引き合いがあるという。

一方、盛り上がりに水を差す兆候もある。半導体不足による納期の長期化と円安で太陽光発電の部材が値上がりしている。オリックスによると電気を大量に使う特別高圧契約の需要家だと、最近までPPA契約の電気代は1キロワット時10―11円で、通常の電気代に比べ1―2円安かった。それが部材価格の上昇でPPAは15円へ上がる可能性が出てきた。

それでも通常の電気代がさらに上昇しているので、PPAの方が2―4円安い。ただし、通常の電気代が低下に転じ、元の価格に戻るとPPAが高くなる。電力高騰前に契約した企業はメリットを享受できそうだが、新規にPPAを検討中の企業には悩ましい状況だ。ただ、脱炭素を目指す社会の方向性に変化はなく、導入が鈍化はしてもPPAの利用は増えそうだ。

日刊工業新聞2022年6月21日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
再生エネは高いと誤解している方がいます(国内で風力はまだ高いですが)。たまにですが、新規参入の小売電気事業者の撤退を再生エネのせいとする方もいます。記事では、太陽光発電の恩恵を受けることができつつある事実を伝えたかったです。まだまだ一部ですが今後、多くの企業がメリットを実感できるようになってほしいです。

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