ニュースイッチ

高精度で安定した「光標準」で省エネ通信、NICTの挑戦

高精度で安定した光周波数基準信号(光標準)を、光ファイバー回線などを用いて遠隔地へと供給する技術の開発が各国で行われている。その主な利用分野は標準時の供給や遠隔環境測定、精密測量などであるが、我々は省エネルギー通信への活用に着目した。

現在の基幹光通信網ではデジタルコヒーレント通信方式が主に用いられている。デジタルコヒーレント通信では、送信側で振幅と位相にデータ変調を加えられたレーザー光を、受信側で別のレーザー光と干渉させ、その結果生じたうなり成分に高速なデジタル信号処理を加えて元のデータを抽出する。送信側と受信側で用いるレーザー光は位相成分が独立に変動するため、位相変動を解消するための信号処理回路が必要となり、受信機で余剰に電力を消費してしまう。

一方、我々の提唱する通信方式では、光標準を基に光コム技術で生成した多波長光搬送波を送信側と受信側で用いる。送信側の搬送波と受信側の搬送波は同じ周波数と位相を持つため、信号処理によって位相差変動を解消する必要がなく、受信機の消費電力を削減することができる。さらに、標準時供給や遠隔環境測定、精密測量などと本システムを同時に運用することで、システム全体の運用コストの削減が期待できる。

本システムの設計に当たっては、どの位遠くの場所まで光標準を劣化させずに伝送できるかが重要な指標となる。我々は長距離光通信で培われた伝送技術を光標準配信にも応用し、1000キロメートル単位での配信が可能であることを実験室環境において立証した。

今後の発展課題として、通信波長帯域内でより高密度にデータ信号と光標準を共存させる技術や、実フィールドにおける性能評価、商用の光回線交換機との適合性を有する光標準配信モジュールの開発などが考えられる。

ネットワーク研究所・フォトニックICT研究センター・フォトニックネットワーク研究室 主任研究員 坂口淳

博士課程修了後、奈良先端科学技術大学院大学研究員を経て、2010年、NICTに入所。以来、光ファイバー通信およびネットワークの研究開発に従事。博士(理学)および博士(工学)。
日刊工業新聞2022年4月26日

編集部のおすすめ