解禁見通せない「給与デジタル支払い」、実現までの高いハードル
給与のデジタル支払いの解禁時期の見通しが立っていない。労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の分科会は、スマートフォンの決済アプリに直接給与を入金する「デジタル払い」解禁に向けた議論を約1年ぶりに再開したものの、銀行と比べて決済アプリ業者の安全性を懸念する声が労働者側に根強い。政府や経営者側は前向きだが、両者の溝は大きく、実現までには高いハードルがある。(幕井梅芳)
給与のデジタル支払いに関しては、厚労省が2021年に示した制度案では不正取引があった際に損失を補償するといった指定業者の要件を明示。今回、新たに検討すべき論点として、銀行振り込みなどデジタル支払い以外の選択肢を提示した上で、勤務先が労働者から同意を得ることなどを挙げた。個人情報の厳格な取り扱いを行うため、第三者機関の認証取得を指定要件とすることも求めている。
労働基準法では、給与は全額現金で支払うのが原則で、口座への振り込みは労働者の同意を得た場合に限り例外として認められている。政府は利便性向上を狙いに、「PayPay(ペイペイ)」などの決済アプリを手がける「資金移動業者」についても、一定の要件を満たせば例外として加えたい考えだ。
しかし、5月に開いた労政審の分科会では反対意見が相次いだ。労働者側の委員は「労働者保護の観点から安全性を検討中の案件が多く、議論をこれ以上前に進めることはできない」「どう資金保全の安全性・確実性を実現していくのか、明確なスキームを示してほしい」など厳しい意見が相次いだ。
政府は21年6月に閣議決定した成長戦略の中で、給与のデジタル支払いについて「できるだけ早期の制度化を図る」としたが、実現困難な情勢が続いている。決済アプリ業者の安全性を銀行並みにいかに高めていくか。金融庁を含めた政府、金融機関との連携が成否のカギを握りそうだ。