「全方位」受け継ぐ、森トラスト社長の経営哲学
「短期・中期・長期の各段階に応じた目線で物事を捉えるようにしているし、視野を広げて多角的に物事を見るようにもしている。数字的な論理と直感的な感性を掛け合わせた意思決定も心掛けている」
こうした経営姿勢を「全方位的」と表現する。創業家の経営者だ。幼少期から会社や事業の躍動を目の当たりにしてきた。各世代の働き方や考えに触れ「短期・中期・長期で段階を経てやっている仕事が変化し成長し、周囲に影響を与える」ことを学んだ。「土地だけで何もないところに(建物が建った)絵姿を描きながら事業が展開される」不動産開発を見て「時系列で将来を考えるようになった」。一方、不動産開発は「夢はあるが事業は事業だ。論理的な思考と合わせてバランスをとることが事業の継続につながる」とも考えるようになった。
「部分最適で各分野の可能性を追求しているが、成長のタイミングはバラバラになることがある。補完し合うことによって、全体最適が生み出される」
新型コロナウイルス感染拡大は、ホテル事業にも影を落とした。しかし、「別の事業が予想より良く、中期計画は予定より早く達成できる状況にある」。インバウンド(訪日外国人)が急激に伸び始めた2010年代中頃からも、国内旅行のニーズにも目を配り、両方に投資をしてきた。経営する立場になり、全方位的な舵取りを奏功させている。
グループ創業者で祖父の森泰吉郎氏、父で森トラスト会長の森章氏に薫陶を受けた。泰吉郎氏は「50歳を過ぎてから学者でありながら不動産事業を始めた。社会貢献や地域発展が自らの使命だと決意した」。経営学者の経験から、人材育成や組織の進化にも力を入れていた。経営理念17カ条として今も根付いている。若い人の話を聞き、さまざまな記事に目を通しては切り抜く姿をよく見かけた。
「常に新しいことを吸収しようとしていた。全方位的にものを考えて自分自身のイメージを創り上げていこうとしているのだろうと思っていた」
章氏には経営は水晶玉のようなものと教わった。水晶玉は光の当たり方や見る角度で色が変わる。「人は一つの方向だけで物事を考えがちだが、環境が変化することを意識しながら、あらゆる角度から物事を見るべきだ」ということだ。全方位的な姿勢を祖父と父から引き継いでいる。(編集委員・池田勝敏)
*取材はオンラインで実施。写真は同社提供。
【略歴】だて・みわこ 96年(平8)慶大院政策・メディア研究科修了、同年長銀総合研究所入社。98年森トラスト入社、00年取締役、03年常務、08年専務、16年社長。東京都出身、50歳。