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ゼロゼロ融資返済本格化への懸念…「企業の自助努力だけでは解決できない」

コロナ禍の直撃を受けた企業を支えるため、政府系金融機関と民間金融機関が金利・返済条件を優遇したコロナ関連融資制度を始めて丸2年。感染収束が見通せず、事業が回復していない状態で本格的な返済が始まる。ウクライナ情勢と円安によるエネルギー価格の高騰にも見舞われ、返済原資を確保できるのか。企業の資金繰りの状況や今後求められる支援策を実情に詳しい二氏に聞いた。

懸念される融資後破綻
帝国データバンク情報統括部部長・上西伴浩氏

―2022年は実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の元金返済が本格化します。実情をどうみますか。

「全国約2万社を対象に実施した調査では、52%の企業がコロナ関連融資を利用し、返済状況については54%が融資条件通りに返済、32%は今後返済が始まるとのことだった。他方で『返済が遅れる恐れがある』あるいは『返済額の減額や猶予などの条件緩和を受けないと返済は難しい』など今後の返済に不安を抱いている企業が9%に上る。ただ、これは2月時点の調査。ウクライナ情勢以降、収益環境は厳しさを増していることが推察される」

上西伴浩氏

―手厚い金融支援で21年度の企業倒産件数は歴史的な低水準に抑制されました。この状況はいつまで続くとみていますか。

「今後数カ月は大きな変化はみられないだろう。皮肉なのは比較的、経営体力のある中堅企業がコロナ後を見据え、過剰な金融債務を抱える不採算部門を切り離し、早めの事業再生に踏み出す動きがみられる一方で、経営不振企業の倒産が抑制されている実情だ」

「中堅企業は(借入金を資本金と見なす)資本性ローンの活用により、債務者区分を変えずにプロパー融資(保証協会によらない金融機関の自前融資)を受けることも可能だ。それ以外の企業をどう救うかが今後の焦点となるだろう」

―今後の企業の資金繰りに変調を来す兆しや、引き金となる要因についてはどうみていますか。

「懸念されるのは、コロナ融資を利用した後に経営破綻するケースがじわり増えている点だ。21年度は前年の約5倍に上ったほか、22年3月は単月としては最多の32件に達した。事業の先行きに将来展望を抱けなくなったケースのほか、事業継続に必要な追加融資が受けられなかったケースもある。(金融機関への返済が難しくなった債務を保証協会が肩代わりする)代位弁済がわずかに増えてきていることも気がかりだ」

―苦境をどう乗り切れば。

「もはや企業の自助努力や資金供給だけでは解決できない局面にあるのではないか。だからこそ、事業そのものに目を向けた融資姿勢や経営支援が問われる。政府は増大する債務に苦しむ中小企業の収益力改善や事業再生、再挑戦を促す総合的な支援策を打ち出しており、この中には事業再生の新たなガイドラインも盛り込まれている。経営状況を平時と有事に分け、中小企業の実態に即した事業再生手続きを定めたものだ。これらも活用しつつ経営者は自身で抱え込まず一歩を踏み出してほしい」

収益改善、時間との闘い
東京信用保証協会企画部長・上原衛氏

―信用保証からみると金融環境は「平時」に戻っていますか。

「当協会の保証承諾額はコロナ関連融資の実施や拡充に伴い、20年度は前年度比4・7倍の約6兆2700億円に達したが、21年度は約1兆2400億円で、新型コロナ感染拡大前の19年度の水準まで戻りつつある。一方で保証債務残高は前年度比横ばいで、今なお高水準にある。コロナ融資は金利や返済条件が優遇される据え置き期間が長いためだ」

―代位弁済の状況はどうですか。

「各種支援策で抑制されてきたが、運輸倉庫業やサービス業では増加がみられる」

上原衛氏

―コロナ関連融資は無利子が3年、据え置き期間は5年以内に設定される、かつてない金融制度とのことです。企業の財務状況の変化をどうみますか。

「東京都のコロナ関連制度融資の無利子限度額は1億円。中小企業の多くは資金繰りに一息つけたのではないか。借り入れは膨らんではいるが、一方で現預金も増加している。これを大きく取り崩し日々の資金繰りに充てる事態になると(財務状態としては)危険信号だが、現時点ではそこまで至っていない」

―本格化するコロナ融資の元金返済に、原材料価格高騰や円安による収益悪化要因が重なると、資金繰りが懸念されます。

「予備的にコロナ融資を受けた一部事業者の中にはすでに完済する動きもある。(据え置き条件から勘案すると)返済の小さな山は今夏、ピークは23年夏頃迎えるとみている。それまでの期間を収益基盤の強化やPL(損益計算書)改善にいかに有効活用するかが重要で時間との闘いでもある」

「当協会の制度の利用企業はコロナ前は17万社ほどだったが、この3年あまりで5万社近く増加した。うち6割ほどは金融機関のプロパー融資がないので、特に協会側から積極的に動く必要がある」

―具体的にはどんな支援を講じますか。

「プッシュ型経営支援の強化だ。経営改善計画の策定を通じて、収益力向上や新規事業展開を後押しするとともに、返済条件の見直しによる資金繰りの改善や返済正常化も積極的に進める方針だ。また返済猶予(リスケジュール)になる前に、コロナ借換制度などを活用し、資金繰りをつないでいくことも重要な支援の中心となる」

「こうした支援はこれまで本部の経営支援部を中心に行っていたが、4月からはすべての支店も機動的に動けるよう体制を刷新した。必要と思われる企業にはこちらからアプローチし(資金繰りに行き詰まる前に)早めの対応を促す方針だ」

【記者の目/債務返済と確実な事業再生を】  官民で約56兆円が投じられたゼロゼロ融資。コロナ禍での事業継続を下支えしたのは事実だが、急激な円安や原材料価格の高騰で企業の収益環境は新たな局面に入った。政府は総合緊急対策で資金繰り支援を行うが、過剰債務の返済原資をいかに確保するかという課題が残る。政府、自治体、経済団体、金融機関による伴走型の支援を拡充・推進し、債務返済と確実な事業再生につなげたい。(編集委員・神崎明子)

日刊工業新聞2022年5月10日

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