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「不斉合成」触媒が繰り返し使える、東大が開発した技術の効能

東京大学の小林修教授らは、反応溶媒に水を使い、右手と左手の関係にある分子のうち一方の分子だけを作る化学反応「不斉合成」の触媒を繰り返し使える技術を開発した。不斉合成で使われる「不斉ルイス酸触媒」を使用。触媒を溶媒とともに回収し、活性を保ったまま繰り返し再使用できた。水を溶媒とした有機反応を確立したことで、環境負荷の軽減や再使用にかかる手間、エネルギー消費量の削減につながると期待される。

成果は独科学誌アンゲバンテ・ケミー電子版に掲載された。

金属原子を囲むように形成した化合物である「錯体」を触媒に利用。中心の金属原子がスカンジウムの錯体を使い、樹脂の一種「ポリスチレン」に固定してスカンジウムイオンが漏れ出ないよう工夫した。輪の構造を持つ化合物「エポキシド」が切れる反応で触媒を評価すると触媒と水を10回再使用でき、医薬品の原料となる分子が効率的に得られた。さらに反応後、遠心分離操作のみで生成物と触媒、水を分離できた。

不斉合成は、医薬品や化成品などを素早く合成できる化学反応として使われている。だが有機反応に使われる溶媒は有毒で、廃棄される化学系廃棄物の8割以上を占める。さらに反応後の混合物から溶媒を取り除く蒸留操作での二酸化炭素(CO2)排出量が、化学産業のCO2排出量の4割に上っている。そのため環境負荷の低い化学反応の確立が求められていた。

日刊工業新聞2022年5月10日

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