特殊詐欺撲滅せよ、日本初「AI×犯罪心理学」共同研究の中身
街頭犯罪などを防いで市民を守り、治安・イメージ向上へ―。兵庫県尼崎市が、市内の高齢者を対象に特殊詐欺を未然に防ぐ共同研究を始めた。富士通の人工知能(AI)技術と、同市の防犯アドバイザーを務める桐生正幸東洋大学教授の犯罪心理学を組み合わせ、被害者の判断力低下などの心理状態を推定、リスクの可視化などにより、複雑かつ巧妙化する特殊犯罪撲滅につなげる。AIと犯罪心理学を組み合わせたコンバージングテクノロジーを活用した共同研究は日本で初という。
尼崎市の2021年の特殊詐欺事件は発生件数102件、被害額は約9700万円に上る。1件当たりの被害額は100万円を超え、高齢者の老後資金などが狙われるだけに対策が急がれた。これまで通話録音機の貸し出しや警察、防犯協会、金融機関などと連携し立ち上げた「尼崎特殊詐欺防衛隊」の活動を通じ対策を講じてきた。ただ21年は前年比で発生件数が増加、3者の共同研究を基に本格的な対策強化を進める。
兵庫県警察の協力を得て、関西地区で多発する還付金詐欺をモデルに「導入」「展開」「行動」の3段階に分かれたシナリオを作成。ブロックごとの心理状態を想定し、体験した驚きや不安などの心理尺度と生理的指標を採取して生理反応と心理状態を照らし合わせデータを収集する。生理反応は確実にその状況把握ができるだけにカギを握る。研究は1年間を予定。上半期の実証を踏まえ、その後の展開を検討し、情報やデータ収集を「市の(特殊詐欺防止の)施策に生かす」(同市生活安全課担当者)ことも視野に入れる。
今回の研究は、犯罪者、被害者双方の挙動や手がかりを組み合わせたことが特徴。桐生教授は「犯罪心理学では犯罪者と被害者の関係性も重要で、より精度の高い予防・防止システムを構築したい」考えで、「独居老人のライフスタイルに寄与し、日常生活の安全・安心にまで広がれば」と今後に意欲を見せた。市の担当者も「(共同研究で)被害者にアプローチするプロセスは明らかになる。そのノウハウを犯罪抑止に生かす」とした上で、「プロセスが分かれば新たな防犯も可能になる」と結果に期待を寄せる。
尼崎市は13年から犯罪防止事業として防犯の取り組みを開始。桐生教授のアドバイスの下、多発するひったくり事件の減少を目指し市民への啓発や青色防犯パトロールなどを展開。取り組み前の12年(1―12月)の258件が21年(同、速報値)には10件に減った。その後、12年の同市の街頭犯罪認知件数の約40%、2800件を超える自転車盗難対策に16年頃から着手。放置自転車対策やメディアの活用などで21年(速報値)には1004件と約3分の1になるなど成果を上げている。