量子コンピューター用ソフトウエアのキュナシスが資金調達。今後の展望を聞いた
量子コンピューター用ソフトウエアの開発を手がけるQunaSys(キュナシス、東京都文京区)は第三者割当増資で12億4000万円の資金調達を実施した。
2019年、米グーグルが量子コンピューターの計算速度が現在のスーパーコンピューターを超える「量子超越性」の実証に成功して以降、次世代の計算機として開発競争が進む。キュナシスは量子コンピューターの産業利用を見据え、ソフトウエアの開発と三菱ケミカルなどが参加するコンソーシアムを運営。「量子産業」時代へ向けた展望について、楊天任代表に聞いた。
量子コンピューターとは:量子力学を応用した、並列計算が可能な計算機。従来のコンピューターは計算前に0か1のビットを決める必要があった。対して、量子コンピューターでは0でも1でもある「量子重ね合わせ」という特性を用いて計算する。同時に2つのビットを取ることで、複数通りの計算を1度に行える。複数の種類があるが、代表例はアニーリング方式とゲート方式。米調査会社IDCは世界の量子コンピューター市場が27年に86億ドル(約9800億円)に成長すると予測する。
ー現在は化学分野での応用に特化しています。その理由と現在の状況について教えてください。
現在の量子コンピューターは、量子ビットの制約もあり複雑な問題を解くことはできない。ただ、化学分野は小さな分子であってもシミュレーションができれば、大きな価値が生まれる。そのうえで現状のハードのスペックを考慮した際に、最初の実証例に適切だと判断した。当社と同じように量子コンピューター向けのソフトウエア開発を行うプレイヤーも同様の方向性だ。
18年の創業以降、コンソーシアムや共同研究を通じてユースケースを増やしてきた。一例が三菱ケミカルと行った振動子強度の計算アルゴリズムの共同研究だ。併せて、きちんと使えるアルゴリズムを開発してきた。今は量子超越の計算機が世界でも少ないため、現在のコンピューターに比べれば、計算速度の優位性は乏しい。ただ量子ビット数が増えていけば、より高度な分子をシミュレーションできるようになる。その際、量子コンピューターを最大限活用できるよう産業で使えるアルゴリズムを作っていく。
ー具体的にはどのような研究を行っているのですか。
シミュレーターの結果を量子コンピューターで再現できるかという研究を行っている。現在の量子コンピューターでそのままシミュレーションすると計算能力の制約やノイズの問題が生じる。そこでシミュレーターの結果を再現できるように、回路図やアルゴリズムの調整を行っている。
また「量子誤り訂正」も重要だ。世界では、量子ビットに冗長性を持たせる「量子誤り訂正符号」や正しい計算結果を予測する「量子誤り抑制」の手法が研究されている。当社もソフトウエアとしてできることを研究していく。
ー調達した資金の使い道は。
共同研究をより進めつつ、汎用的なソフトウエア「Qamuy」の性能を向上させる。研究の成果をアルゴリズムに生かすことで、ソフトウエアの性能を高める。深層学習(ディープラーニング)初期の人工知能(AI)スタートアップのビジネスモデルに近い。25年から27年にかけて、1万から10万の量子ビットの量子コンピューターが誕生すると予想している。そうなれば、現状課題になっている計算資源の制約はある程度解消されるはずだ。そのタイミングで量子コンピューターが実用化できるよう目指す。将来は「窒素固定」のような自然現象の化学反応や人工的な再現のシミュレーションを実現したい。ビジネス面では欧州拠点を開設し、海外企業に向けて協業先を広げていく。