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量子コンピュータのソフトウェア開発に挑む大阪大学、国内研究の必要性を力説する理由

量子コンピュータのソフトウェア開発に挑む大阪大学、国内研究の必要性を力説する理由

米IBMの量子コンピューター「IBM QシステムONE(クアンタム・システム・ワン)」

高速処理で“難題”解く

粒子と波の性質を併せ持つ、非常に小さな物質やエネルギーである量子。通常の物理法則とは違う特有の「量子力学」に基づく現象をみせる。これを利用し、従来の処理能力では難しかった問題を解くことができると期待されるのが量子コンピューターだ。既に小規模ではあるが、ハードウエアが存在する。高性能化には並行してソフトウエアの開発も重要となり、大阪大学の量子情報・量子生命研究センターはその研究に挑んでいる。(大阪・安藤光恵)

量子コンピューターは現在のスーパーコンピューターでも数千年かかる複雑な計算が、わずか数十秒で解けると期待される。その原理となるのが、ナノメートル(ナノは10億分の1)以下の粒子に働く物理法則だ。通常の「古典力学」が通用せず、微小な粒子特有の「量子力学」に基づく。大阪大学の藤井啓祐基礎工学部教授兼量子情報・量子生命研究センター副センター長は、「量子力学では日常の直感を超えた現象が起きるが、実は古典力学を内包し、あらゆる現象を説明できる最も一般的な法則だ」と語る。

量子コンピューターで主流の「量子ゲート方式」で重要になるのが「量子の重ね合わせ」現象だ。既存のコンピューターの情報単位であるビットの情報は0と1の2進法で表す。全てのビットで0か1のどちらか一方の状態のみとなるため、複雑な情報では多くのビットが必要となり、それを一つずつ順番に処理するため、計算に時間がかかってしまう。

一方、量子ゲート方式コンピューターの情報単位「量子ビット」では、0か1のどちらか確定しない「重ね合わせ」状態が基本だ。0と1どちらの状態も一つの量子ビットで処理できるため、複数の量子ビットのあらゆる状態の組み合わせを一気に計算することが可能だ。さらに、二つの粒子が離れていても強い相互関係を持つ「量子もつれ」現象も利用する。

量子コンピューターの始まりは因数分解の計算。通常のコンピューターで計算可能なものの、膨大な時間がかかってしまう処理を可能にすると注目された。今後開発が進めば、複雑に原子がつながった高分子でも最適解を計算して新素材や新薬開発などに応用が可能なほか、金融分野などでも力を発揮するとみられる。消費電力も少なく、セキュリティーも向上する見込みだ。

量子コンピューターのハードウエアは、IBMやグーグルなど米国の大手IT企業が開発を進める。ただ、その実用性を高めるためには量子ソフトウエアの開発も不可欠だ。阪大量子情報・量子生命研究センターが研究を進める、量子ビットでエラーが起きても元の状態を復元可能な「量子誤り訂正」技術などが挙げられる。

同時に日本発のハードウエアの開発も待たれる。「量子コンピューターは3年5年で決着できるものではなく、マラソンはスタートしたばかり。軒並み米国が抑えてきたIT分野で日本が勝負できる絶好のチャンス」と藤井教授は国内研究の必要性を力説している。

日刊工業新聞2021年10月25日

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