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夢の未来技術「ホログラム」、研究開発の今

光の干渉を利用して3Dの情報が記録された媒体はホログラムと呼ばれる。筆者が生まれるよりも前から、ホログラムを使った3D技術はSF映画などで夢のある未来の技術として取り上げられてきた。そして現在、電子情報技術の持続的な発展を伴いながら、夢に近づくために研究開発が続けられている。

ホログラムと聞くと3D映像を表示するものを思いがちであるが、3D映像を記録するもの、いわば3Dカメラ技術として活用することも提案されている。ホログラムをデジタル記録し、計算機での信号処理を通じた数値的ピント合わせで物体の3D情報を測る技術はデジタルホログラフィと呼ばれ、波長の物差しで物体の3D位置や形状を精密に測る計測技術、スキャンや機械的なピント合わせが要らない3D顕微鏡技術などへの応用がなされている。

ホログラフィでは、一般的に3D情報を得るために物体から来た光の干渉縞(じま)を作りだす必要があり、レーザーなど特殊な光を出す光源が必要だと考えられてきた。

情報通信研究機構(NICT)では、自然な光の干渉縞を記録するために、シャボン玉を介して太陽光が干渉模様を作り出す原理を活用している。特殊なレンズや偏光板、液晶などを使って干渉縞を作ることで、ランプや発光ダイオード(LED)、蛍光などの種類を問わず、自然な光をフルカラーのホログラムとして記録することに成功した。そして、1回のホログラム記録でカラーの3D情報を得る蛍光顕微鏡を世界で初めて実現した。

私は現在、ピントを合わせるのが難しい数多くの小さな物体の動きを、秒間100コマを超える3D動画像として記録する顕微鏡や、物体の3D情報を精密に計測する手のひらサイズのホログラフィック測定機器への応用研究を進めている。多数の観察対象に対して同時にフォーカスを合わせられる3D検知器として、最先端の科学計測機器、コンパクトな3D顕微鏡への展開を目指している。

提案技術を誰でも手軽に、見たい対象の3D動画をぶれなく取得できる機器にするよう研究開発に励みたい。

◇電磁波研究所 電磁波先進研究センター・デジタル光学基盤研究室 主任研究員 田原樹 13年京都工芸繊維大院修了、科学技術振興機構さきがけ研究者(兼任)などを経て19年より現職。自然な光のホログラフィックな精密・動画像計測、多色顕微鏡などへの応用に関わる研究に従事。博士(工学)。
日刊工業新聞2021年10月19日

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