尊敬され感謝される企業へ、クボタ会長が掲げる「GMB」とは?
「売り上げ、利益の追求だけではESG(環境・社会・企業統治)の観点からも外れる。尊敬され感謝される会社になることこそが『GMB』。これは間違えてほしくない」
1890年(明23)創業で現在は農業機械を中心にグローバルで事業展開するクボタ。社長就任翌年の2015年、「グローバル・メジャー・ブランド(GMB)」の実現を目指すことを掲げた。「特に米国人スタッフが、『(世界最大の米農機メーカー)ジョン・ディアに勝つぞ』と士気が大いに高まった」と振り返るが、GMBに込められた真の意味は業績で世界のトップを目指すだけでなく、社会貢献の必要性だ。
「若い時からチャレンジさせる企業風土は昔から当社に根付く」
88年、米国ジョージア州で農機工場を新設した際、工場の運営面を一人で任されたが「失敗は気にせずにやれ」と言われた。挑戦は、現地大手になくクボタが強みとする小回りの利く農機の設計で活路を開いた。米市場で小型トラクターのシェアは数%から一気に15%程度に伸長。「世界」を知ったことも、後のGMB実現を目指す大志を抱く源泉にもなっている。
「社員とともに地域社会、取引先や協力会社を大切にすること」
この「三方よし」と言える理念もGMBの根幹だ。実感したのは10年に就いたタイ農機子会社トップの時。11年にタイは洪水に見舞われ、クボタのタイ工場も浸水などの被害を受けた。排水作業でクボタのポンプ車が送り込まれ、社員が対応に当たった。現地では「クボタの社員が奮闘している」とタイ政府にも伝わり、当時のインラック首相から表彰を受けた。「社員は誇りを持ち、お客さまやディーラーも喜んでくれた」と地域と関係先にも良い刺激を与えた。
「いろんな意味でのプラットフォーマーになる。『食料・水・環境』の三つの輪がそれぞれ大きくなって一体化し、循環するのがクボタの目指す道」
自ら掲げた「GMB」は、北尾裕一社長が長期ビジョン「GMB2030」で進化させた。「どうやれば社会貢献の幅が広がるか。農業で言えば生産から出荷までトータルで付加価値を高めるため、お客さまに寄り添ってほしい」と願う。
自社ラグビーチームの応援によく赴くのは“ワンクボタ”として全社の一体感を実感できることもある。「社員に伝えたいのはクボタに入って良かったと思えること」。(編集委員・林武志)
【略歴】きまた・まさとし 77年(昭52)北大工卒、同年久保田鉄工(現クボタ)入社。05年取締役、08年常務、12年取締役専務執行役員、14年副社長、同年社長、20年会長。岐阜県出身、70歳。