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クレディセゾン会長CEOの根底にある故・堤清二氏の教え

林野宏氏

「人物を学歴や年齢に関係なく、能力で評価する。私の根底には、堤清二さんのこうした考え方がある。ビジネスマン人生で最大の影響を受けた」

西武百貨店(現そごう・西武)に1965年に入社し、同社中心の企業集団「セゾングループ」を築いた故堤氏の薫陶を受けた。82年には西武クレジット(現クレディセゾン)に移籍し、会社の再建を担う。百貨店の緑屋が経営不振に陥り、西武百貨店が救済することになり、西武クレジットに社名変更していた。割賦販売からクレジットカードに事業転換する中で、能力主義を第一とし女性を積極的に登用した。

女性は就職しても25歳ごろには結婚し、退職するのが珍しくなかった当時、西武百貨店などのカード入会カウンター業務で女性の中途採用を募集すると「一流企業に就職して結婚したが、離婚した女性たちが応募してきた。やる気十分で、男性に負けないという気持ちがあった」と言う。

「仕事に性別は関係ない。新入社員研修では『女尊男卑』だと話していた。実力が同じなら、女性のほうを登用するということだ。男尊女卑のアンチテーゼだ」

一方、顧客側のカード会員でも女性に門戸を広げた。かつて、銀行系カードは男性でさえも入会基準が厳しかったが、女性でも氏名、住所、電話番号を登録すれば入会できるようにした。一時は会員の約75%を女性が占めるほどだった。

読書家で中国古典を読破した。『孟子』からはどういう人が勝ち残るかを学んだ。孟子は、群雄割拠する戦国時代に国が勝ち残るためには民の支持を得ることの重要さを説く。

「企業も同じで、経営者が大切にするのは顧客と社員だ。彼らの望むことに対応し、嫌がることはしない。そうすれば、国が勝ち残るように会社も栄える」

ポイントに有効期限のない「永久不滅ポイント」を導入するなど、発想力と実行力を兼ね備え、クレディセゾンを日本屈指のカード会社に育て上げた。だが今では、国民のカード複数枚保有も珍しくない。市場は飽和状態で、行き詰まり感もある。

「過去に入会したカードが利益を生むが、組織は甘やかされる。人間は一度成功するとそれに引きずられるため、成功体験に弱い。改革をしなくなるが、それではダメだ。ただ、部長以下の若い世代は会社の成功後に入社し、成功体験そのものがない。まずは彼らに成功体験を積ませることが、これからの仕事だ」(戸村智幸)

【略歴】りんの・ひろし 65年(昭40)埼玉大文理卒、同年西武百貨店(現そごう・西武)入社。82年西武クレジット(現クレディセゾン)入社。85年常務、95年専務、00年社長、19年会長CEO。京都府出身。79歳。

日刊工業新聞 2022年2月15日

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