「保険金不払い問題」「リーマン・ショック」…日生会長が困難に直面するたびに思いをはせた経営哲学
「組織の長として究極のミッションは従業員の雇用を守ること」
30代まで会社に対し斜に構えたところがあったものの、年を重ね責任を負う立場に身を置くことでこの使命感が芽生え始めた。ワーカホリックな性格にも起因するが、「仕事に魂を入れると『楽しむ』次元に至らない」とはグループ社員10万人の生活を預かった重責ゆえの言葉だ。2006年の保険金不払い問題や08年リーマン・ショックなど、会社が数々の困難に直面する度にこの経営哲学の体現に思いをはせた。
11年4月の社長就任直前に起きた東日本大震災での経験は経営哲学を形作った一つ。4月の就任後すぐ、職員が当時25人ほどの三陸中央営業部(岩手県山田町)に激励に赴いた。仮設の営業所を拠点に、自身も被災者でありながらスーツを着て避難所に出向き、顧客の安否確認に奔走する営業職員の姿が目に焼き付いた。
東京から応援団を派遣することを提案したが「日頃から訪問活動をしている私たちが対応したい」という声が返ってきた。そこで保険金請求手続きに必要な書類を一部省略する特別取り扱いなど後方支援体制の確立に重きを置いた。「就任前から現場の職員一人ひとりが日本生命を支えてくれていることを言葉では当然に理解していたが、その実感を強くした」と振り返る。
社長就任時に掲げた経営戦略「真に最大・最優の生命保険会社に成る」には揺るぎない決意が垣間見える。
「生保ビジネスは統計ビジネスであり規模が大きいほど、経営は安定する。経営の安定化は最優につながり、結果として従業員の雇用と契約者を守れる」
また、読書家の筒井氏が歴史書から学んだのがリーダーシップには「時勢」が大切ということだ。
「垂直時間の歴史、水平空間の経営環境。このような時の流れを意識して意思決定することが経営だ。流れに乗ることやあらがうこと、時には岸に上がり冷静に分析することを心がけてきた」
時勢を意識した経営判断の一つが自己資本の活用で、従来の資本の充実により財務健全性を高めるだけでなく「自己資本を生かし長期的な経済リターンの獲得を目指すことを積極的に考えるべきだ」と明示。三井生命(現大樹生命)や約1800億円を投じた豪MLCなど、情勢を見極め相次ぎ買収を実施。最大・最優の実現へ、守りから攻めの経営への道を切り開く。(増重直樹)
【略歴】
つつい・よしのぶ 77年(昭52)京大経済卒、同年日本生命保険入社。99年長岡支社長、01年企画広報部長、03年総合企画部長、04年取締役、09年取締役専務執行役員、11年社長、18年会長。兵庫県出身、67歳。