京セラが開発、潮流で発電したわずかな電力を生かす「スマートブイ」の価値
潮流を利用して発電した電気でデータを収集、送信する「スマートブイ」を京セラと長崎大学が共同開発した。発電量はわずかだが、電池交換が難しい海でも永続的に稼働する。小さなエネルギーを使った発電はエナジーハーベスティングと呼ばれる。エネルギー消費を抑えながらIoT(モノのインターネット)の普及を支える技術として注目されており、スマートブイの実用化にも期待がかかる。
京セラなどが開発したスマートブイは2種類。水平分離型は海に浮くブイと発電部で構成する。海に沈んだ発電部の羽根が潮流を受けて回ると、タービンも回転して発電する。もう一つの垂直一体型は、ブイの底に羽根が取り付けられている。羽根が回転するとブイに内蔵したタービンが稼働する。2種ともブイに搭載したセンサーやアンテナ、蓄電池に発電した電気を供給する。
潮の流れを使った発電は潮流発電と呼ばれ、原理は水力や風力発電に近い。潮流は規則的に流れるため、天候に左右されずに発電できる。ただ、時間帯によって流れの速度が変わる。長崎大学の坂口大作教授は人工知能(AI)と遺伝的アルゴリズムによって低速時でも効率的に発電する構造を導きだした。「小型でシンプルであり、さまざまな速度に対応できる構造を求めた」(坂口教授)という。
京セラらは21年4月の9日間、五島列島(長崎県)付近の海で実証した。水平分離型は1日に最大44・6ワット時、最小0・9ワット時を発電した。平均発電量は16・3ワット時、センサーとデータ送信の平均消費電力量が15・2ワット時だった。発電量が消費量を上回ったので、電池交換や電力供給がなくても稼働することを証明できた。垂直一体型も22年1月の実証で発電量が消費量を上回った。
スマートブイが実用化されると海にセンサーを張り巡らせることができる。長崎大学の経塚雄策教授は「衛星画像は海表面の観測だが、海にセンサーがあると現地の状況が分かるようになる」と語る。海水温の変化をきめ細かく収集できると気象予想の精度も上がる。またセンサーによって魚群を確認できると、漁船が魚を探しながら航行する燃料費を節約できる。
実用化に向けて京セラIoT事業開発部プロジェクト2課の永山時宗氏は「実海域は何が起きるかわからず、1年を通した試験にも取り組みたい」と意気込む。
エナジーハーベスティングは小さなエネルギーを落ち穂拾いのように“収穫(ハーベスト)”することから名付けられた。未利用エネルギーを活用するので環境発電とも呼ばれる。他社ではリコーが照明で発電する色素増感太陽電池を商品化した。電池交換が不要なセンサーとして倉庫や製造工程の温度管理などで活用されている。コマツ子会社のKELK(神奈川県平塚市)は、熱を電気に変える部材を使ったセンサーを実用化した。生産設備が発する熱で発電できる。
データ量の増加に伴う電力消費の増大が懸念されている。デジタル化と環境問題の解決を両立するエナジーハーベスティングの研究開発にも拍車がかかりそうだ。