ニュースイッチ

ZHD・LINE統合1年、コマース「相乗効果は道半ば」の背景にある問題

ZHD・LINE統合1年、コマース「相乗効果は道半ば」の背景にある問題

川辺氏(左)からヤフー社長を引き継ぐ小沢氏の手腕が問われる(ヤフー提供)

2021年3月1日付でZホールディングス(HD)とLINEが経営統合し、それから丸1年がたった。広告や金融といった広範な領域で相乗効果を発揮し、海外事業も拡大していく狙いがあった。だが統合完了後に発覚したLINEの個人情報管理不備の影響で出はなをくじかれた感は否めない。ガバナンス(企業統治)関連の問題はLINE以外のグループ会社でも顕在化しており、ZHDの対処が試される。(編集委員・斎藤弘和)

「LINE利用者という大きな市場に、既存のコマース(電子商取引)ビジネスをどうリーチしていくのか非常に期待しているが、残念ながらこの1年間では実現に至らなかったという感じだ」―。SMBC日興証券の前田栄二シニアアナリストは、ZHDとLINEのコマース分野における相乗効果の発揮は道半ばだと指摘する。

背景の一つに前田氏は、LINEの情報管理の問題を挙げる。対話アプリ「LINE」利用者の個人情報が中国から閲覧可能になっていたり、会話データを韓国で保管したりしていたことが21年3月に発覚。4月には政府の個人情報保護委員会がLINEを行政指導する事態となった。

ZHDはLINEにおけるデータの取り扱いを検証する特別委員会を開くなどして管理体制の改善に努めたものの、こうした対応に追われた分、事業拡大のスピードが鈍った可能性は否定できない。

ZHD親会社のソフトバンクも「国が進めている個人情報の考え方には、我々がついていかないと業界に残れないというくらいの危機感で、本気になって取り組んでいる。国の方向には賛同する」(宮川潤一社長)。携帯通信料引き下げの政策に対しては懸念を示すこともいとわない宮川社長がこれほど神妙になる課題であり、ZHDは引き続きガバナンスを優先したかじ取りをせざるを得ない。

一方、今後は経営体制の強化が期待できる。ZHDの中核事業会社であるヤフーでは、小沢隆生取締役専務執行役員が4月1日付で社長に昇格。川辺健太郎社長は取締役に就き、ZHDの社長を継続する。「川辺さんはZグループ全体を統括していく中で(ヤフーに)割ける時間も限られてくる。信頼関係ができているはずの小沢さんがヤフーを迅速にハンドリングし、新しいサービスを進めて頂ければ」(SMBC日興証券の前田氏)。

ただ、ZHDの企業統治面の問題は他にもある。料理宅配を手がけるグループ企業の出前館は21年12月に、21年8月期の連結決算を訂正した。未収入金や未払い金の残高が過大に計上されるなど、不適切な会計処理が確認されたことが理由。訂正後の21年8月期の営業損益は191億円の赤字だ。

ヤフーの小沢氏は「(食料品や日用品などを短時間で届ける)クイックコマースで出前館が持つ役割も非常に大きい。私自身が取締役に選任されているので、ガバナンスも含めて良いものにしていくよう頑張りたい」と前を向いた。今後の指導力に注目が集まる。

日刊工業新聞2022年3月1日

編集部のおすすめ