「『転注する』と脅された」…原材料費の上昇、中小企業「価格転嫁できない」2割
原材料費やエネルギーコストの上昇が続き、適切な価格転嫁の重要性がより高まっている。ただ、経済産業省・中小企業庁が受注側の下請け中小企業約4万社を対象に実施した調査によると、直近1年間で発注側企業と価格交渉できなかった受注側企業は1割、価格転嫁が全く実現できなかった企業は2割にのぼった。企業庁は調査結果を業種・企業ごとに順位付けし、下請中小企業振興法に基づく行政指導に乗り出すなど取引環境の改善を急ぐ。(下氏香菜子)
価格転嫁に関する今回の調査は、原材料高や労務費上昇分の価格転嫁を促すため2021年9月に設置した「価格交渉促進月間」後のフォローアップとして同10月中旬―11月中旬に実施した。直近1年間のコスト上昇分のうち価格転嫁できた割合などの調査結果をもとに発注側の業種・企業を順位付けし、価格交渉や価格転嫁の実態をより明確にした。
調査のうち価格交渉については直近1年で発注側に協議を申し込み「応じてもらえた」と回答した受注側は57・1%と半数を超えたが、「応じてもらえなかった」企業が4・1%、「価格に納得していないが、協議を申し込まなかった」企業が4・6%と約1割が交渉できていない。価格転嫁が全くできなかった企業は20・8%に達した。
価格交渉や価格転嫁達成状況から割り出した業種別順位では、価格交渉の状況が良い上位業種は電気・情報通信機器、食品製造、建設、金属で、下位業種はトラック運送・印刷、放送コンテンツ、自動車・自動車部品だった。価格転嫁の達成状況が良い上位業種は金属、放送コンテンツ、化学、素形材、下位業種はトラック運送、印刷、自動車・自動車部品、建設だった。
下請け取引を専門的に調査する「下請Gメン」による受注側への聞き取りでは発注側から「『価格交渉促進月間を踏まえ、交渉を希望する場合は応じる』との連絡があり約15%の値上げを認可された」(工作機械)、「発注側の担当者から『取引価格について見直す』と連絡があった」(半導体製造装置)など月間の成果があったことが分かった。
一方で「原材料費の大幅上昇で値上げを求めたが『他社は要請してこない』と断られた」(食品製造)、「『転注する』と脅された」(自動車・自動車部品)といった問題事例も判明し、受発注間の取引をめぐる課題があらためて示された。
企業庁は調査結果を踏まえ、2月10日に価格転嫁対策を含めた下請け取引適正化に関する今後の取り組み方針を公表した。価格交渉・転嫁状況が良くない個別企業に対し、下請中小企業振興法に基づく行政指導を順次開始するほか、21年9月に続き、3月を価格交渉促進月間と定め、終了後に今回と同様の調査を実施する。企業庁の幹部は「月間がただのパフォーマンスではないというメッセージを発信していきたい」と強調する。
また大企業経営者が取引適正化を宣言する「パートナーシップ構築宣言」の実効性を高めるため、宣言企業全社を対象にした調査を実施し、結果を公表する。大企業の経営層だけでなく、受注側との交渉を担う調達現場への宣言内容の浸透を徹底する。
今回の調査では宣言企業で優良な結果だった上位企業も公表し、信越化学工業や東洋紡、NTT東日本、日立システムズ、富士電機などが並んだ。宣言企業による取引適正化の好事例としてはパナソニックやナブテスコの取り組みを示した。
足元では宣言企業約6000社のうち大企業(資本金3億円以上)が全体の約1割に当たる約500社と少ないことが課題になっている。経済団体や業界団体に対する働きかけや補助金への優遇措置拡充のほか、優良企業の公表や好事例の発信を通じ大企業の宣言数増につなげたい考えだ。