ニッポンの航空機ビジネス「一日一歩 三日で三歩 三歩進んで 二歩さがる」
ホンダジェット、引き渡し開始。MRJは納入延期
求められる現実的な納期設定
三菱航空機(愛知県豊山町)が開発する国産小型旅客機「MRJ」の納入が、またも遅れることになった。航空業界では新型機の開発遅れは珍しくなく、従来目標の2017年4―6月の初納入にも懐疑的な見方が多くあった。同社は効率的に試験できる米国での飛行開始を急ぐなどし、納期遅延を最小限にする考え。しかし、これまでも遅れを重ねているだけに、今後は現実的な納期設定が求められそうだ。
「納期目標をそのまま信じ、何もせず待っているわけではない」。初号機を受け取る全日本空輸(ANA)関係者はこう漏らす。MRJの納入遅れは4度目。納期は、08年春の事業化当初で予定された13年から4年以上も遅れる。この間、ANAは退役予定の機体を使い続けるなどして対応してきた。
11月11日に初飛行したMRJだが、初号機納入までの期間が約1年半と短く、業界では「初号機の納期を守るのは厳しい」(部品メーカー幹部)との声が支配的だった。納入遅延により、機体の開発や製造に関わるサプライヤー、それを受け取る航空会社ともに人員や設備の計画変更を余儀なくされる。
旅客機市場では新型機の開発は長期化する傾向だ。経験豊富な欧エアバスの大型機「A350」でも初飛行から納入まで1年半、米ボーイングの中大型機「787」は、1年9カ月かかった。また、カナダ・ボンバルディアの開発する「Cシリーズ」は13年9月に初飛行したが、現在の初納入予定は16年前半と、初飛行から3年弱の時間を要することになる。
一方、三菱航空機はこれまで納期変更には慎重だった。4月や10月に初飛行を延期した際には納期を変えず、11月の初飛行時点でも「現日程での納入は可能」(森本浩通社長)としていた。計画をぎりぎりまで変えなかった背景には、MRJの最大のライバルであるブラジル・エンブラエルの存在がある。
エンブラエルはMRJと似たサイズの「リージョナルジェット」で世界シェアの約半分を握る。残り約半分を占めるボンバルディアは一回り大きな機体の開発にシフトしており、将来的にリージョナル機市場のシェアはエンブラエルが過半となる見通しだ。
そのエンブラエルが現行機種の後継として開発するのが「E2」シリーズ。MRJと同型の最新鋭エンジンを搭載し、18年前半の市場投入を目指す。既にMRJの受注総数である407機を上回る600機以上の受注を得ている。三菱航空機にとって、納入延期はエンブラエルとの受注競争に影響する。
しかし足元で続く試験機の開発では、「細かなトラブルは日々起きる」(関係者)。試験計画を精査し直した結果、納期を変更せざるを得なくなった。
「生みの苦しみ」が続くMRJ。しかし、今後は現実的な納期を設定し、機体の完成度を高めることも求められそうだ。
(文=名古屋・杉本要)
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日刊工業新聞2015年12月25日3面/航空機面