マックフライポテトの品薄から読み解く『戦略的部材の調達』
マクドナルドのフライドポテト「マックフライポテト」の品薄は世のファンを驚かせた。ワクチン接種の促進によってコロナ感染症の猛威が一瞬緩んだ2021年末、日本マクドナルドはマックフライポテトの販売をSサイズに限るという異例の発表(注1)を行った。この措置は、2022年頭の一時的な復旧を経て再び実施された。この状況が「輸入遅延(注2)」によるとの報道を通じてマックフライポテトの調達先が北米地区に集中していることに驚かれた方も少なくないのではないだろうか。
なぜマクドナルドは、日本で販売するポテトの仕入先を北米地区に集中させているのか。今回は、ロジスティクスの問題として語られがちなこの「芋騒動」をサプライチェーン・マネジメントの観点から考察してみたいと思う。
最初に断っておくが、マクドナルドのサプライチェーン・マネジメント体制は世界最高レベルにある。Gartner社のSupply Chain Top 25においても2015年以降殿堂入りしているほどだ(注3)。つまりこの状況が決して漫然と起きたものではないとの認識がSCM実務家の間では一般的であることを強調したい。
さて、同社は、マックフライポテトについて「ハンバーガー類は各国で柔軟に商品化できるが、マックフライポテトはグローバルの基幹商品と位置付けている。(注4)」としている。つまり、同社の商品はあくまでも「セット」での提供が基本であり、マックフライポテトはその構成要素ということだ。「基幹商品」という表現からはビジネスの観点から付加価値の高い要素として位置づけている様子も伺える。
さらに同社は「使える品種や長さのバランスなどの規格が厳密に決められており、それを満たさないと商品が販売できない(同注)」としている。つまり、同社は、ポテトを基幹商品と位置付け、厳密な基準を満たす原料だけを調達するという戦略を採用したといえる。
世界標準のSCMでは、マックフライポテトのように商品(この場合はセット)の価値を決めるのに重要な役割を担い、かつサプライヤーの選択肢が少ない要素を「戦略的部材」と呼ぶ。このように、外部調達する部材の重要性を「利益に与える影響」と「調達が滞るリスク」という2つの軸によって整理して対応方針を検討するアプローチは世界標準のSCMにおける定石の一つとなっている(下図参照)。
さて、この「戦略的部材」を安定的に確保するための調達体制は長期的な供給契約や共同開発など特定のサプライヤーとの強固な関係性を構築することが重要である。すなわち、マックフライポテトの調達先が北米地区に集中しているのは、このようなグローバルSCM上の「戦略的部材」としての判断が背後にあったと考えられるのである。
出所:最終アクセス日は2022年1月27日
(注1)2021年12月21日
北米からのポテトの輸入遅延に伴う「マックフライポテト」MおよびLサイズの一時販売制限について
(注2)2021年12月21日
マクドナルド ポテト一部商品の販売一時休止へ 原料輸入に遅れ
(注3)Gartner Supply Chain Top 25 for 2021
(注4)2021 年12 月30 日
マックのポテト、31 日販売再開 それでも続く「芋騒動」
【著者紹介】
MTIプロジェクト
『基礎から学べる!世界標準のSCM教本(日刊工業新聞社)』の著者である山本圭一、水谷禎志、行本顕の三名による世界標準のSCMの普及推進プロジェクト。
プロジェクト名はグローバルSCMのコンセプトを各人の名字の一文字を用いて表した「水山行」をラテン語風に読んだ”Mare, Terra, Itinera”の頭文字より。
書籍紹介
SCMは天然資源から最終消費者までのものやサービスと意思決定の流れを統合的に見直し、プロセス全体の効率化と最適化を実現するための手法。本書は世界でビジネスをする企業に最適な、世界標準のSCMについて解説する。
書名:基礎から学べる!世界標準のSCM教本著者名:山本圭一、水谷禎志、行本顕
判型:A5判
総頁数:240頁
税込み価格: 2,420円
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