体内で物質輸送を行う“船”をマイクロサイズ化、治療に応用へ
熊本大学の渡辺智助教らは、体内などの水中下で物質輸送を行う船をマイクロメートルサイズ(マイクロは100万分の1)といった小型化につなげられる技術を開発した。皮膚から2センチ―3センチメートルまで透過する特徴を持つ近赤外光と希土類の特性を活用。発生する水面の表面張力の差を駆動力に、効率的に動かす。血管内を動いて薬剤を放出するといった治療用マイクロボットなどへの応用が期待できる。
体内などの水中を効率的に自在に動かす“船”の開発を目指すにあたり、化学物質などにより温度の勾配ができると船が引っ張られる「マランゴニ効果」に着目。一般的には絞った近赤外光を目的とする方向に照射して船を動かしており、照射の難易度が上がる船の小型化は課題だった。
渡辺助教らはすでに熱変換を高める波長選択性の光熱変換材料を開発した経緯もあり、ネオジウムやイッテルビウム、サマリウムの計3種の希土類のうち、異なる2種を船に組み込んだ。これにより照射する光を絞ることなく動かすことに成功。近赤外光領域に狭い吸収を持つ希土類の特性を活用したもので、小型化につなげられる。
作製した船は直線に動く菱形と曲線を描きながら動く羽根型の計2種用意した。使用する元素に合わせて、あらかじめ波長を808ナノ―1084ナノメートル(ナノは10億分の1)までの計3種を設定しており、波長により直線移動の向きが変えられることも確認した。
日刊工業新聞2022年1月25日