「インスタ映え」で需要開拓、縮小するデジカメ市場を生き残るカギ
2021年のデジタルカメラ世界出荷額が2ケタのプラスとなりそうだ。カメラ映像機器工業会(CIPA)がまとめた21年1―11月のデジカメ出荷台数は前年同期比4・5%減の767万台だったが、出荷額は同19・6%増の4476億円となった。要因の一つが一眼レフに比べて小型で軽い高級ミラーレス一眼の出荷増だ。カメラ各社は一眼レフ並みにミラーレス一眼の機能を向上させつつ、「インスタ映え」など会員制交流サイト(SNS)向けの需要に合ったユニークな製品で新たなニーズを取り込む。(安川結野)
高級ミラーレスが人気
CIPAがまとめた21年1―11月のデジカメ出荷額のうち、レンズ交換式のミラーレスは前年同期比37・3%増の2972億円。同5・5%減の832億円だった一眼レフ、同3・6%減の671億円だったレンズ一体型に比べ、好調さが目立つ。
この要因は、国内各社が相次ぎ高級ミラーレスを投入していることが背景にある。キヤノンが21年11月に投入した高級ミラーレス一眼「EOS R3」は、フルサイズ相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサーをEOSシリーズで初めて搭載。ファインダーをのぞいた瞳の動きを利用した「視線入力オートフォーカス(AF)」機能で、素早く撮りたい被写体に切り替えることができる。映像エンジン「DIGIC X」により、電子シャッター撮影時に最高で毎秒約30コマの高速連写と高画質を両立する。
EOS R3の特徴は、さまざまな撮影のニーズにも応える多彩な機能だ。静止画に加えて動画撮影にも対応し、プロの写真家や映像制作者、趣味層など、幅広い客層に訴求する。20年に発売した「EOS R5」や「EOS R6」に続き、EOSシリーズのラインアップを強化した格好だ。
キヤノンは、さらに仮想現実(VR)映像撮影システム「EOS VRシステム」を新たに立ち上げ、カメラ本体の価値最大化を図る。同システムの特徴は、VR映像作成の手軽さだ。EOS R5に装着する専用のレンズ1機種とソフトウエアを使うことで、これまで必須だった撮影前のカメラ位置の調整や同期設定、撮影後の映像をつなぎ合わせる作業が不要となり、映像制作が大きく効率化する。
キヤノンイメージコミュニケーション事業本部の牧孝信主席は「一つのセンサーでVR映像を作成できるシステムはEOS VRシステムのみ。反響はかなり大きい」と手応えを語る。
VR映像はエンターテインメントや観光、教育などBツーB(企業間)市場で需要が増えているという。国内外で活性化するVR市場をターゲットに、今後はBツーC(対消費者)製品の展開などが期待される。
デジタルミラーレス一眼カメラで遅れをとっていたニコンも「ニコンZシリーズ」から初となるフラッグシップ(旗艦)モデル「ニコンZ9」を21年12月に発売した。新開発のCMOSセンサーと画像処理エンジン「EXPEED7」を搭載する。
ニコンZ9は毎秒120コマの連続撮影が可能な「ハイスピードフレームキャプチャ+」の超高速撮影機能や、高性能AF機能を搭載。
さらにファインダーには実際の被写体を途切れることなく表示する「リアル―ライブ・ビューファインダー」機能でミラーレスカメラの弱点だったシャッターの瞬間のファインダー像の消失を克服するなど、カメラメーカー各社の主力製品と差別化する。
スポーツなど動きが速い被写体の決定的瞬間を逃さずに撮影できる機能を備えており、デジタルカメラ市場での巻き返しを図る。
ニコンは趣味層向けの機種でも独自性を打ち出す。「ニコンZ fc」は、1982年発売のフィルム一眼レフカメラ「ニコンFM2」の要素を取り込んだレトロなデザインが特徴だ。全6色でカスタマイズできるボディーなど、見た目にもこだわるサービスで支持を集める。
ニコンの馬立稔和社長は「半導体関連の部品不足や新型コロナウイルスの動向には注視が必要」としながらも「ニコンZ fcが若年層や女性から人気を集めた。Z9も想定を上回る予約を得るなど反響は大きい」と新製品の手応えを強調する。
“個性”で新たな顧客開拓
富士フイルムは「GFX50SⅡ」を21年9月に発売した。プロやハイアマチュアを中心に支持を集めるミラーレスデジタルカメラ「GFXシリーズ」のラインアップを強化する。
GFX50SⅡは、重さ約900グラムの小型軽量ボディーや強力な手ブレ補正機能を搭載し、幅広いフィールドで手持ち撮影のニーズに応える。GFXシリーズの「ラージフォーマットセンサー」ならではの豊かな階調表現や美しいボケ味を生かした超高画質な写真撮影を実現する。
一方でカメラ各社は、個性的な製品で新たな顧客の取り込みも狙う。富士フイルムは「インスタックス(チェキ)」シリーズから最上位機種としてデジタル技術搭載のハイブリッドインスタントカメラ「インスタックス・ミニ・エヴォ」を発売した。
レンズとフィルムのエフェクト(効果)の組み合わせで「100通りの撮影エフェクト」を実現し、情景を感じたままに表現できる。若年層などから支持を集めるチェキシリーズだが、インスタックス・ミニ・エヴォでは高級感あるデザインやダイヤル操作など細部にまでこだわった。
富士フイルムの山元正人常務執行役員は「(クラシックな見た目は)デジタルネイティブ世代の支持も期待できる」と自信をのぞかせる。
キヤノンは、電源を入れて置いておくだけで被写体の認識・追尾で静止画や動画を撮影する自動撮影カメラ「パワーショット・ピック」を発売。その場の全員が被写体となるため、「撮影者も一緒に写真に写りたい」「自然な表情が撮りたい」といったニーズに応えたユニークな製品だ。撮影や一時停止など4種類の操作をハンズフリーでできる音声操作機能や、スマートフォン専用アプリケーション(応用ソフト)を使った遠隔操作機能を搭載する。
コロナ禍で打撃を受けたカメラ市場は回復傾向にあるものの、高機能化したスマートフォン搭載カメラの影響などで長期的には市場縮小が続く見通し。機能性を追求しながら、デザインや独自性で顧客を獲得できるかが、競争力のカギを握る。