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衛星搭載の雲レーダー活用。NICTが挑む「世界初の試み」の現在地

衛星搭載の雲レーダー活用。NICTが挑む「世界初の試み」の現在地

独エアバスでCPRをEarthCARE衛星に取り付けた。写真上部がCPRで送受信機などの入るプラットフォームと直径2・5メートルの大口径アンテナからなる(NICT提供)

雲は手で触れることはできないが、身近にいつも存在している。空を見上げればさまざまな形の雲があり、時には日射を遮り、雨を降らせる。さらには気象災害を起こす台風や局所的な豪雨なども元は雲から派生した現象である。

雲の発生や雲から降水に至るメカニズムは複雑であり、近年の気象学では雲に関連する研究が盛んに進められている。特に雲はその高度によって地表気温への寄与の仕方が異なるため、地球温暖化予測において重要である。よって雲の性質や分布を正しく予測することが気温上昇の予測精度に関わるため、全球での雲の高さ、厚さなどといった雲の鉛直分布の情報が必要となるが、気象衛星観測では雲の水平分布は分かる一方で鉛直分布の情報は不足している。

雲粒の大きさは雨に比べると非常に小さく、波長が数ミリ程度の周波数の高いレーダー(雲レーダー)で観測する必要がある。またこの波長では雲内部まで透過することができるため、反射されてきたエコーの距離と受信強度により、雲の鉛直分布情報が得られる。

情報通信研究機構(NICT)では約20年前に日本で初めて航空機搭載型の雲レーダーを開発し、さまざまな観測を実施し、これまで分かっていなかった雲の鉛直分布を明らかにしてきた。

現在NICTはこの研究開発を発展させ、欧州宇宙機関(ESA)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力し、雲や大気中の微粒子(エーロゾル)の気候影響を明らかにするためにEarthCARE(アースケア)という衛星ミッションを進めている。

この衛星に搭載する雲レーダー(CPR)は雲エコーの強度だけでなく、その鉛直速度を計測するドップラー機能も付加されている。後者は世界初の試みでそのデータ処理には新しいアルゴリズムの開発が必要であり、NICTはそうした課題にも取り組んでいる。

EarthCARE衛星は2023年に打ち上げ予定であり、この衛星観測により雲の発生から消滅するまでの過程の理解が進み、豪雨の予報精度改善や地球温暖化予測の精度向上につながると考えている。

◇電磁波研究所・電磁波伝搬研究センター リモートセンシング研究室 研究員 萩原雄一朗 09年東北大院博士課程修了後、九州大、宇宙航空研究開発機構を経て、20年よりNICTにて現職。ミリ波雲レーダーやライダーによる雲やエーロゾルの解析研究に従事。博士(理学)。
日刊工業新聞2021年12月14日

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