高齢者支援を起点に地域をスマート化、IT企業の協業・実証実験が相次ぐ
IT各社が高齢者支援サービスの普及に向け、他業種との協業や実証実験を相次ぎ実施している。総務省によると、2021年9月時点で65歳以上の人口は3640万人。20年比22万人の増加で、過去最多となった。介護事業者の業務効率化を支援するシステムのほか、コロナ禍で外出機会が減少した地域住民の健康・コミュニケーション促進を支援するサービスも登場している。高齢者支援を起点に、地域社会全体をスマート化する動きが今後も加速しそうだ。(狐塚真子)
NTTデータはスマートディスプレーを活用した高齢者向けサービスの実証実験を北海道富良野市で実施中。端末に話しかけることで、毎日の健康確認やビデオ通話、音楽・動画視聴などの機能を利用できる。コロナ禍による外出制限で住民間のコミュニケーション機会が減少する中、従来は対面で行っていた交流イベントのオンライン開催も実現した。
端末への質問内容や使い方の提案も適宜行うことで、これまでスマートフォンを操作したことがなかった住民も円滑に利用できているという。本人の同意が得られれば、端末の利用状況や回答内容などのビッグデータ(大量データ)をマーケティングにも活用できそうだ。
今後は端末上での日用品の購入や、地域の商店街で使えるクーポン発行などの機能追加も検討する。しんきん事業部事業推進担当の牧野司部長は「行政・企業・金融機関をつなぎ、(同サービスを起点に)地域全体を活性化したい」と話す。
日立製作所は高齢者などの移動制約者向けの新たな交通サービス実現に向けた実証実験を、群馬県高崎市の介護施設などと実施している。2021年11月に取り組みの第1弾として、介護施設への送迎計画の自動立案機能の検証を始めた。
利用者の乗車時間や車いす・付き添いの有無、当日使用可能な車両、送迎時間の許容範囲などの条件を入力。考え得る多くの候補の中から条件に合った答えを導き出す「組み合わせ最適化」手法を活用し、送迎計画を高速に作成する。
「100人を10台の車両で送迎する」という状況の場合、人手による計画作成には1時間程度要していたが、同計算手法を活用することで、10分以内に最適な計画を導き出すことが可能になった。乗車時間など、利用者の細かなニーズを考慮しながら計画を作成していた介護施設事業者も「これまで作っていた計画に近いものができている」と評価しているという。
実証の第2弾として、利用者の依頼に基づくオンデマンド(注文対応)の送迎システムも検証する予定だ。スーパーマーケットや病院など、利用者がよく使う場所を停車地点として事前に登録しておくことで、利用者の要望があった際、円滑に乗り合いが可能か実証する。
今後、この取り組みを他の介護事業者へ広げていきたい考え。社会・通信ソリューション本部デジタルソリューション推進部の米倉裕子担当部長は「地域の交通手段を補完する役割として、高齢者だけでなく、子どもや妊産婦なども利用できるようにしたい」と意気込む。
NTT東日本、丸紅情報システムズ、ニフコの3社は、無線・電源レスセンサーを用いた各種IoT(モノのインターネット)ソリューションの提供を共同で推進する。各センサーは照明や圧力、振動エネルギーを電力に変換できる「EnOcean(エンオーシャン)」を採用。電池切れで検知できないリスクを回避できる。
NTT東日本、ニフコは、高齢者の見守りシステムを地方自治体向けに提案する。地域内の各施設にセンサーの電波を受信できる専用の受信機を設置。センサーを身に着けた高齢者が自宅や公民館などの施設を出入りした際、家族・自治体職員などに対してメールを通知する仕組みを構築した。普段から身につける習慣がある靴などにセンサーを搭載することで、高齢者が意識することなく遠方から見守りできる体制を実現した。
このほか、温度や照度などの環境情報を取得できるセンサーや、ドアの開閉状況を検知できるセンサーを高齢者の自宅内に設置することで、環境を可視化できる仕組みも構築。異常を検知した際には、家族や自治体職員への通知も可能となっている。
調査会社の富士経済(東京都中央区)がまとめた高齢者施設・住宅、介護関連市場の商圏分析によると、同市場は高齢者人口の増加により市場拡大が続き、30年には19年比35・2%増の1兆944億円に達する見込み。20年度は新型コロナウイルス感染拡大による移動制限に伴い、高齢者への訪問を避ける動きが見られたため、高齢者施設・在宅用の見守りサービスが伸長。このほか、介護業務の効率化システムなども今後継続して市場が拡大するとみられる。
デジタル庁の発足により、社会全体でデジタル化推進の機運が高まっている。高齢者支援などを起点に、地域社会のスマート化がより一層加速することになりそうだ。