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コロナで業績悪化のJR西日本、AI活用「コスト構造改革」に挑む

コロナ禍で大幅な業績悪化を余儀なくされたJR西日本では、コスト構造改革のため人工知能(AI)導入を加速している。長谷川一明社長は「次期中期経営計画で鉄道のメンテナンス改革は大きな課題。機械の検査自動化は非常に重要なテーマだ」と意欲を示す。厳しい経営環境の下、同社は9月に2500億円増資するなど財務体質の強化に取り組むが、一方でコスト改革に向けた設備投資では2022年度末までに300億円を投じる。

コスト改革への取り組みの一つとして11月に試験運用を始めたのが、在来線の広範囲な設備データを取得できる総合検測車「DEC741」だ。屋根上と側方に50台の特殊なカメラを備え、架線だけでなく電柱や信号機など、沿線を広く撮影。取得した画像をAI画像解析装置で解析し、検査の良否判定に生かす。車上から広範囲に設備データを取得するのは、国内の鉄道事業者で初めてという。

これにより検査員が目視で行ってきた地上検査の一部を25年頃までに自動化。30年までに労働投入量の1割削減を目指す。

また同社はクマヒラ(東京都中央区)と共同で、AIモデルを搭載した防犯システムも開発した。防犯カメラの映像をリアルタイムに解析し、事前に学習させた人の動きや物体を検知するほか、あらかじめ設定した特定の場所へ人が侵入したことも検知する。

長谷川社長は「車椅子を使っている方のサポートや、人が倒れ込む状況を検知して救護に出向くことができたり、ナイフを振り回すような行動を検知できたりする」と意義を強調。列車内での凶悪事件が相次ぐ中、業界を超えスピード感を持って対策に取り組む。

ほかにもソフトバンクと共同で自動運転と隊列走行技術を用いたバス高速輸送システム(BRT)の実証実験を開始するなど、他社と協力した技術実証に力を入れる。長谷川社長は「オープンイノベーションを加速させ、当社のデータ分析力を活用しながら社内外の課題解決に挑戦する」考えだ。

関西では大阪・関西万博が開幕する25年へ向け鉄道事業者間の連携も進む。19年にはJR西と南海電気鉄道、阪急電鉄、阪神電気鉄道、大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)、近畿日本鉄道、京阪ホールディングスの7社がMaaS(乗り物のサービス化)検討会を立ち上げ、広域MaaSの共同検証を始めた。「未来社会の実験場」をコンセプトに掲げる万博を目標に、自動運転や最適配車など、AIを活用した取り組みが今後いっそう進みそうだ。(大阪・大川藍)

日刊工業新聞2021年11月19日

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