JR九州子会社が残業年間2万時間を削減、浮いた財源の使い道
JR九州システムソリューションズ(JRQSS、福岡市博多区、香月裕司社長)は、残業の徹底した削減からスタートした働き方改革で効果を上げている。残業代の低減分を原資に、オフィスの改装や学びの支援を実現。エンプロイー・エクスペリエンス(従業員経験)の向上を図る。離職率を1%ほどに抑えているほか、社員のスキルアップによる企業風土の改善、業容拡大にもつなげている。(西部・三苫能徳)
JRQSSはJR九州の子会社で、グループ内のシステム開発を主に手がける。他方でグループ外販の拡大や内製化の推進を中期経営計画に掲げ、事業拡大を目指している。柱は多様性や挑戦の企業文化・製品・人材の三つを「つくる」こと。特に人づくりでは働き方改革を含め、従業員経験の最大化を図る。
スキルアップの支援は手厚い。本業に関わる人工知能(AI)やセキュリティー分野の資格のほか、簿記1級の取得やビジネススクール通学は、社内公募に通れば費用を全額支援する。資格を取得すれば技能手当も支給。人づくりを事業の強化や創出につなげる。
「社員のレベルが上がらないと会社も良くならない。社員の満足にはキャリアアップの仕組みも必要」と香月社長は説明する。
働き方改革は、香月社長が社長職に就いた2016年に端を発する。当時、労務管理の徹底が課題だった。「残業が美徳という企業風土」(香月社長)で、15年の総残業時間は2万8200時間。生活費を稼ぐため意図的に残業する生活残業の社員もいた。そこで「残業がすごく嫌い」な香月社長は残業の適正化を断行することを決めた。
まず残業理由を徹底的に“見える化”。上司の指示のない残業は規則違反で処分した。一方で品質低下を防ぐため、人手不足の部門には派遣社員を雇用して残業を解消。夕方以降の業務が不可欠な部署は勤務時間をずらした。
結果、16年には残業を2万時間削減。残業代にして年6000万円を減らした。増員分の経費を引いても4000万円のコスト圧縮効果が残った。さらに「残業削減分を社員に還元する。社員のレベルを高めつつ将来に良い投資をする」(香月社長)と決めた。一時金のほか、夏冬のボーナスを各2・6カ月分支給。加えて、削減分を「財源」にした働き方改革が本格的に始まった。
オフィスは「従業員が笑顔になれる会社」をコンセプトに改装。職場を明るくし、フリーアドレス制やリフレッシュルームの導入、社内禁煙などで新たな空気を取り入れた。
以降も残業時間は一定水準を維持し、働きやすさは“辞めにくさ”にもつながった。社員は現在170人で16年から約50人増えた。現在の離職率は1%ほどだ。
コロナ禍を機にテレワークを推進したこともあり、「ワークライフバランスの充実を評価する社員が多い」と香月社長。「カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)と従業員経験は密接に関係する」として、さらに社員の働き方と待遇の改善を続けて業績の向上につなげる考えだ。