【ディープテックを追え】“捨てている”エネルギーを活用する環境発電とは?
人が地面を踏む力や物が振動する力など、我々が意識せずに“捨てている”エネルギーは少なくない。エネルギーは小さいが、IoT(モノのインターネット)化した機器を動かすのに必要な動力になるかもしれない。慶応義塾大学発ベンチャーの音力発電(神奈川県藤沢市)は、人や車が通った振動や波を利用した発電「エネルギーハーベスティング(環境発電)」を提唱する。
振動を電力に
同社が製品化したのは人の歩行の振動を電力に変える「発電床」。外からの圧力を電力に変換する圧電素子という素材を床の下に敷き詰める。体重60キログラムの人が1秒間に2歩進んだ際に0.1から0.3ワットの電力を生むという。圧電素子はライターやガスコンロなど身近なところで使われるもので、同社は独自の設計を施すことで特許を取得した。
活用例は防災など多岐にわたる。例えば、火災によって煙が充満し、地面を這うように進む際の振動を電力に変える。その電力で床の誘導灯などを照らす。そのほかにはコンビニなど店舗に設置し来店者を感知するセンサーの電力にする。来店者にはスマートフォンを通じて、クーポンを配信する。このようにサービスと紐付けた活用が中心だ。速水浩平社長は「生み出す電力が少ないので、単体での利用は難しい」と説明する。現状は軽微な電力という位置づけだが、将来的にはIoT機器への応用が考えられる。
監視カメラなどさまざまな機器をネットにつなぐには電力が必須だ。ただ、生活の至る所に電力を供給する配線を用意するのは利便性やコストの面から現実的ではない。振動など“捨てられている”エネルギーを活用できれば、この問題の解決につながり、生活空間を一変できるかもしれない。
波の利用も
一方、大きな電力を作ることにもチャレンジしている。波の力を利用した波力発電だ。海に囲まれた日本では、太陽光などに比べ安定的な電力を得られると期待されているが、普及が進んで来なかった。理由は海上での施設建設の難しさや維持コストの高さ、自然災害への耐久性の低さなどが挙げられる。同社は安定性や耐久性を高めた波力発電装置の実用化を目指す。
実験用の装置は縦3メートル、横2メートル、高さ3メートル。波が上下する位置エネルギーを取り込み、内部の水をポンプアップする。その水を利用してタービンを回し発電する。高さ50センチメートル程度の小さい波だけを取り込み、発電するのが特徴だ。高い波を取り込まないようにして、耐久性を高める。速水社長は「大きな波を取り込むと発電量は大きくなるが、装置が破損するリスクがある」と話す。
再生可能エネルギーの導入が進んでいるが、太陽光や風力は天候の影響を受けやすい。同社が開発する循環型波力発電装置は再生可能エネルギーの“不安定さ”を解消できる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などの事業にも採択されている。
実用機は実験用の10倍、出力は330キロワットに大型化する。2022年度8月頃には沖縄県の久米島で実用機での実験を行う予定だ。「日常にありふれているエネルギーを収穫して、クリーンな社会を実現したい」と速水社長は意気込む。
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