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自動運転に利用するパルス電波を評価、NICTが開発した世界初の手法とは?

近年、自動運転のための車間レーダーや在宅医療現場での見守りサービスのための生体センシングレーダーなど、短時間に急峻(きゅうしゅん)な変化をするパルス的な電波を利用するさまざまな電波利用機器が開発されている。

これらのパルス的な電波の利用に当たっては、他の無線ネットワークへ混信して通信性能の劣化や誤動作を引き起こしたり、機器から放射された電波が人体へ影響を与えたりすることのないようにしなければならない。また、情報通信端末等に実装される高速クロック電子回路や省エネ家電に実装される高効率スイッチング電源から、意図せずにパルス的な電波が瞬間的に強く発生するものもある。

そのため、情報通信研究機構(NICT)では、パルス的な電波を高精度に計測する技術や高精度な数値解析技術等について研究開発を行ってきた。

パルス的な電波の伝搬特性や吸収特性等を評価するための高精度な数値解析には、物質の電磁的特性を正確にモデリングすることが必要である。しかし、自然界に存在する多くの物質は周波数によって変化する電磁的特性を有しており、正確なモデリングは容易ではない。

そのため、NICTでは、非常に広い周波数範囲にわたって変化する物質の電磁的特性を正確にモデリングできる新たな計算手法を開発し、パルス的な電波に対する人体へのばく露評価を世界で初めて可能にした。

この技術を用いることで人体に対するパルス的な電波の影響を調べ、人体内に吸収される過渡的な電磁エネルギー量を短時間で高精度に求めることができるようになった(図)。

さらにパルス的な電波は、人体周辺無線通信、人体位置検知、地中探査レーダー、非破壊計測や自動運転等のさまざまな先進的な研究分野における利用が見込まれているため、パルス的な電波に対して高精度・高速で解析できる技術は、今後の社会基盤インフラを築く上で、ますます重要性が高まっている。

このため、電波の精密計測技術と高精度解析技術に取り組み、先進的なIoT(モノのインターネット)社会の安心・安全に貢献していきたい。

◇電磁波研究所電磁波標準研究センター・電磁環境研究室 主任研究員 チャカロタイ・ジェドヴィスノプ 10年東北大院修了後、名工大などを経て、13年よりNICTにて現職。電波の精密計測と高精度数値解析に関する研究に従事。IEC/CISPR SC―Aエキスパート。博士(工学)。
日刊工業新聞2021年9月14日

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