コスト1兆円削減打ち出したNTT、試される「攻めの経営」
NTTがデジタル変革(DX)の加速を打ち出した。通信関連設備の点検や診断を遠隔で行える仕組みの整備を進めるなどし、1兆円超のコスト削減につなげる。ただ、DXでより強く期待されるのは革新的な事業モデルの構築や、顧客満足度向上といった成果だ。遅れていたNTTグループの再編は総務省の接待問題に一つの区切りがついたことで前進するとみられ、再編を機に攻めの経営を強化できるか試される。(編集委員・斎藤弘和)
「新たな経営スタイルへの変革で、コスト削減効果を2000億円上積みする」―。澤田純NTT社長は、9月末に開いた投資家向け説明会で、こう述べた。従来のコスト削減目標は2023年度に17年度比で8000億円以上としてきたが、1兆円超になるとした。
具体策の一つが、電柱や鉄塔、マンホールといった通信関連設備の点検や診断を遠隔で行う仕組みの整備だ。自動車や飛行ロボット(ドローン)に搭載したカメラで設備を撮影。それらの写真を人工知能(AI)で解析して補修の要否を判断したり、設備改修に必要となる設計業務を遠隔で行ったりする。
この結果、23年度に立ち会いなど現場で行う仕事の稼働を17年度比で半減。25年度には発注や設計といった遠隔で行う業務の稼働も17年度の半分にすることを目指す。現在、設備の点検や診断関連事業には協力会社を含めて約6万人が携わっているため、効果は大きそうだ。ただ、空いた人員を新たな業務に回す可能性もあり、単純に要員数を半減する意図ではないという。
他の施策でも、自動化の対象とする業務プロセスを25年度に21年度比5倍の100以上に増やすなど、意欲的な目標が並ぶ。ただ全体的に、自社グループ内での費用削減が目立つ印象は否めない。日本企業における情報システム投資は、長年、既存業務の効率化をはじめとする“守り”が主眼だった。効率化で新事業に挑戦するための資金や人的資源を捻出できる側面はあるにせよ、守りの活動をDXとは呼びにくい。
だが、自社で培った効率化の知見を顧客に販売して売上高を伸ばせれば、“攻め”の色合いが濃くなる。渋谷直樹NTT副社長は、設備点検・診断を遠隔化する仕組みについて「電力やガス、水道などのインフラ会社にも展開できる」とした。
NTTはDXを錦の御旗に掲げる限り、事業モデルの変革や顧客体験の大幅な向上を追求し、それが中長期の業績にどう反映されるかを利害関係者へ示すことが求められる。しかし自社が総務省幹部らを接待していた問題の影響でNTTグループ再編は遅れ、再編効果を織り込んだ上での中期経営計画の見直しには至っていない。
折しも、総務省が設置した情報通信行政検証委員会は1日、接待問題が総務省のNTT関連の対応に与えた影響は確認できないとの最終報告をまとめた。NTTが今後、革新的なサービスを迅速に創出できるような体制をつくれるのか、改めて注目が集まる。