コロナワクチン接種者向けに特典、危機の観光関連業者が需要取り込みに知恵
観光関連産業の中小事業者の間で、新型コロナウイルスワクチン接種完了者向けの販促の動きが出はじめている。ホステル(簡易宿泊施設)では、ワクチン接種必須の運営形態に転換するほか、観光施設は割引キャンペーンを実施する。ワクチンの接種を2回終えた人口の割合が全国民の過半数に達し、11月にも国によるワクチンの接種証明や検査の陰性証明を組み合わせる「ワクチン・検査パッケージ」の導入が予定される。各社は対応を模索し、ワクチン接種後の需要を取り込む。(山下絵梨)
FIKA(フィーカ、東京都新宿区、福山大樹社長)は、運営するホステルのUNPLAN Shinjuku(アンプラン・新宿)を、ワクチン2回接種済みの人のみが宿泊可能なホステルにリニューアルする。まず接種完了者に限り滞在できる限定フロアを設け、宿泊者にはチェックインの際にワクチン接種証明の提示と滞在中の携帯をお願いする。感染拡大が進む新宿区のホステルで実施し、限定フロアの設置から段階を経て全館コロナフリーの施設を目指す。
外国人旅行者がメーンターゲットだったホステルは新型コロナの世界的流行で危機的状況に直面した。運営形態の転換にあたり、福山社長は「法的な問題、ゲストの心情、スタッフの心情、東京の接種状況とさまざまな問題が絡む」とし「ニューノーマル(新常態)な宿泊施設運営のノウハウをためて、同業者にも積極的にシェアしていきたい」と語る。
長野県で旅館を経営する親湯温泉(長野県茅野市、柳沢幸輝社長)は、8月末に政府から発表されたワクチン接種証明書の活用方針を受け、ワクチン接種済みの人限定の特別優待プランの販売を決めた。経営する2店舗で、混雑を避けた平日の利用の宿泊料金を10%引きにするなどのキャンペーンを始めた。
シニア層のワクチン接種が進む中、カワスイ 川崎水族館(川崎市川崎区、有馬律雄館長)はシルバーウィーク期間中、ワクチンの接種を2回完了した65歳以上を対象に〝シニア割〟を実施する。ワクチン接種証明書と身分証明書の提示で入場料を半額にする。
レジャー情報サイトを運営するアクトインディ(東京都品川区、下元敬道社長)が全国101施設を対象に8月に実施した調査では、ワクチン接種者に対して何らかのサービスや特典の実施を考えている施設は2割となった。
日本商工会議所は「2022年度中小企業・地域活性化施策に関する意見・要望」を取りまとめ、観光関連産業の再活性化に向けて、ワクチン普及を見据えた需要の喚起や獲得に向けた支援を国に求めている。