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【ディープテックを追え 特別編】エコシステム、イノベーションの作り方を聞く

ディープテックを聞く2

これまでニュースイッチ上で、計15回掲載してきた【ディープテックを追え】。革新技術の社会実装を目指す企業にフォーカスを当ててきた。ディープテックを実装できれば社会を一変させることも不可能ではない。一方で、ITサービスに比べ投資難易度は高く、実現性は乏しいとされる。それでも、「難しい」とされるディープテック分野に投資や経営支援をする流れが増えてきた。ディープテックの意義や投資先を見極めるポイントなどを関係者に聞いた。

この連載では、「ディープテック」と呼ばれる先端テクノロジーの事業化を目指す企業を掲載します。
また、自薦、他薦を問わず情報提供も受け付けております。
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〈関連記事〉これまでの【ディープテックを追え】

「東大発ベンチャー」のエコシステムを構築

東京大学協創プラットフォーム開発(東京都文京区)パートナー河原三紀郎氏、水本尚宏氏
水本尚宏氏(左)、河原三紀郎氏

ディープテックやバイオテック企業は、一社のみで成功するものではない。企業の成長ステージに合わせて様々なベンチャーキャピタル(VC)が支援をする必要がある。フェーズに合わせて経営支援のバトンを渡していくようなイメージだ。また、ディープテック領域では、出口までに時間がかかるのも事実だ。だからこそ、一社一社の出口戦略ではなく、全体のエコシステムを構築することがなおさら重要になる。

当社ファンド「協創1号」では民間VCと、「AOI1号」では企業との協力を掲げて運用している。その目的も「東京大学発ベンチャーのエコシステム」を作ることにある。

ファンド運用では、もちろんリターンを求める。それでも、様々な条件をつけて民間のVCが投資をしにくいものにも投資をしている。例えば、優先株式の条件を工夫するなどして投資している。

そのほかではプレシード育成プログラムを通じて、プレシード期の企業に投資や経営支援を行っている。より民間のVCでは届かない部分をカバーできればと思っている。

一般的にはITサービス系の方が「投資効率が良い」と考えがちだ。ただ、アメリカにおいてはディープテックやバイオテックの方が「投資効率が良い」とされる。東大発のベンチャーのサイエンスや技術の観点で見たときに、世界と決して遜色ないものを持っていると思う。それでも、ビジネスの市場性で見た時に、日本だけで勝負するのは物足りない。我々としては世界で戦えるような企業に投資したいと考えている。

今後、ディープテックが盛んになることはあっても、廃れることはない。技術においても企業が中心になっていたものから、大学から社会実装されるものへシフトしていくだろう。その流れにおいて、大学発ベンチャーや我々のようなVC、基礎研究を行う大学などを包括したエコシステムは重要になるだろう。

複雑な現代こそ、技術の組み合わせが重要

SRIインターナショナル 日本代表イギデル・ユセフ氏、NSIC所長クリス・コワート氏
イギデル・ユセフ氏
クリス・コワート氏

SRIインターナショナルの目的は世界を変える技術を世の中に生み出すことだ。その一環で7月に野村ホールディングスと共にアメリカでインキュベーション施設「野村SRIイノベーション・センター(NSIC)」を立ち上げた。この施設では、これまでの日本企業への知見提供のみならず、シリコンバレーのベンチャーが日本市場に参入したり、または、日本のベンチャーがアメリカ市場に参入したりする手助けもしたい。

イノベーションには「プレイヤー兼コーチ」が必要だ。イノベーションを正しく導いていくためには、技術を知っているだけでは不十分。そこに加えて、一緒に伴走する能力も必要だ。

また、現実の問題は複雑になっており、一つのテクノロジーでは解決できなくなっている。コンテナ船の混雑を取ってみても、解決の手法や原因は多岐にわたる。むしろ、様々な技術を組み合わせることが重要になる。船を大きくすることだけではなく、混雑を可視化し渋滞しないようにするシステムなどが挙げられる。このように最適な組み合わせを考えることが今後テクノロジーに必要な視点だ。

最後にディープテックは時間のかかる領域だ。そのためには間違いなく資金が必要。そして、時間も大切な資産だ。時間を有効活用するためには、長期的視点とせっかちな短期的視点の二面性も併せ持つことだ。(クリス・コワート氏の)経験ではあるが、米グーグルに在籍していた際は、日々実験を繰り返し、短期的な結果を求めていた。他方「1年後はここまで達成する。2年後はここまで」といったように長期的視点を持つことも重要だ。

大学に資金と人材が還流する仕組みづくり

Beyond Next Ventures(東京都中央区)CEO、マネージングパートナー伊藤毅氏

前提として、大学発のベンチャーは非常にユニークであるということだ。それは他には真似できないということであり、まさに競争力になっていると言える。そして、大学の研究をベースにした事業の成果が資金や人材として大学に戻ってくるエコシステムの構築が必要だと考えている。その環流する仕組みがなければ、「今すぐ社会実装できる」ものが焼き畑的に刈り取られて終わってしまう。そうなれば、日本の研究開発が先細る懸念がある。

そのためには国の研究資金だけでは不十分であり、リスクマネーを投資すると共に人材も環流する仕組みを作りたい。当社としては、ファンドによる投資活動だけではなく、起業初期の人材のリクルートなどの支援を行っている。投資活動においては、感覚ではシードやアーリー期の企業に8割。出口が見えやすいものに2割ほどの割合で投資している。企業ごとに成長の時間は異なるため、ファンドの中で時間の長短を考え、バランスを取っている。

 

また、ITベンチャーであれば、サイバーエージェントやディー・エヌ・エー(DeNA)などから独立し、起業する流れが存在する。ディープテック領域では、まだこのような流れを牽引する存在はいない。そこで、近年注力しているのは大企業からのカーブアウトの支援だ。技術への理解や起業家精神、必要なチームを持った人がチャレンジできる環境を作っていきたい。

ディープテックに投資する我々の使命としては、アカデミアの研究環境が良くなる流れを作ることに尽きるのではないだろうか。大企業やVC、スタートアップなど様々なプレイヤーが大学の研究成果の恩恵を受けている。そこの環境を良くすることは当然必要ではないだろうか。

この連載では、「ディープテック」と呼ばれる先端テクノロジーの事業化を目指す企業を掲載します。
また、自薦、他薦を問わず情報提供も受け付けております。
情報提供の際は、ニュースイッチ deeptech情報提供窓口  deeptech@media.nikkan.co.jpまでメールをお送りください。
メール送付時に、会社の概要を記した資料またはHPのURLをご記載ください。
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小林健人
小林健人 KobayashiKento 第一産業部 記者
皆さんに話を聞くと、「チーム作り」と「イノベーションの流れを止めないこと」が大きくテーマ感としてあると感じます。様々な背景を持った人物が参画することによって、企業として多様性に富んだものになります。大学からベンチャー企業へ、または逆の流れを作り、人や知識が色々なところから入ってくる文化を醸成する必要がありそうです。

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ディープテックを追え VOL.3
ディープテックを追え VOL.3
宇宙船を開発する米スペースX、バイオベンチャーのユーグレナ-。いずれも科学的発見や技術革新を通じて社会問題の解決につなげようとする企業で、こうした取り組みはディープテックと呼ばれる。日本でディープテックに挑戦する企業を追った。

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