【ディープテックを追え 特別編】ディープテック企業に投資する基準は?
これまでニュースイッチ上で、計15回掲載してきた【ディープテックを追え】。革新技術の社会実装を目指す企業にフォーカスを当ててきた。ディープテックを実装できれば社会を一変させることも不可能ではない。一方で、ITサービスに比べ投資難易度は高く、実現性は乏しいとされる。それでも、「難しい」とされるディープテック分野に投資や経営支援をする流れが増えてきた。ディープテックの意義や投資先を見極めるポイントなどを関係者に聞いた。
この連載では、「ディープテック」と呼ばれる先端テクノロジーの事業化を目指す企業を掲載します。〈関連記事〉これまでの【ディープテックを追え】
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ディープテックの本質は「課題解決」
リバネス(東京都新宿区)代表取締役グループ最高経営責任者(CEO)丸幸弘氏ディープテックは「課題をいかに技術で解決するか」ということだ。すなわち、技術が先行するのではなく、課題を解決するために技術を使う「課題ドリブン」こそ、本質的な意味である。課題を解決できるのであれば、先端技術なのか、古くから使われる技術かは問わない。そのためには、スタートアップだけではなく、大手企業や町工場などの中小企業を巻き込んだ集合体が重要だ。リバネスはこうしたチームを作る能力を得意としている。
支援の決め手になるのは人だ。解決しようとする課題を「自分ごと」として捉えられる人を支援している。例えば、当社が支援しているタイのReadRingという企業がある。同社は文章をなぞると点字を生成されるデバイスを開発しているが、健常者であれば、「読み上げまでした方が便利だろう」と考えてしまう。ただ、我々が文章を読む時、感情に合わせて読むスピードを変えていないだろうか。悲しい時にはゆっくり、激しい(気持ちになっている)時は素早くというように、抑揚をつけている。この製品は「視覚障害者」の読書体験という課題を解決できるといえる。
繰り返しになるが、技術を社会実装することが目的ではなく、あくまで課題を解決することが重要だ。おおげさに言えば、課題を解決できるのであれば、時間と資金をかけた「技術を使わない」という選択を取れることにある。台風時でも発電できる風車を開発するチャレナジー(東京都墨田区)の清水敦史社長にこの選択肢を投げかけた際に、「また、新しい技術を開発します」と即答した。
世界中には課題が山積しており、今ある技術で解決できるものも多い。それを解決できるのは日本ではもう使われなくなった「枯れた」技術かもしれない。それらを多くのプレイヤーが持ち寄り、チームを組むことが解決の糸口になると考えている。
コンピュータとの掛け合わせで研究速度が加速
Abies Ventures(東京都港区)マネージングパートナー山口冬樹氏、パートナー長野草太氏我々はシード期のディープテック企業には投資をしにくいが、ある程度アーリーな段階であれば投資しやすくなってきた。その理由は研究速度が早まっていることにある。
半導体の基板を例に挙げよう。おおげさに言えば、コンピュータで制御する前は性能が少しでも違えば、半導体の基板そのものを作り替えなくてはいけなかった。そのため、軽微な変更を繰り返すだけでも大幅な金銭的、時間的コストが必要だった。
そこにコンピューターサイエンスの要素が加わると、軽微な修正であれば、プログラムを変えることで対応ができる。この一点だけでも研究の速度が大幅に向上していることが分かる。研究速度が向上することで社会実装のスピードも速まる。また、人工知能(AI)の進展により素材などの組み合わせ候補の段階から絞り込みが可能になってきた。今後、量子コンピューターなどが進展すればこのスピードはますます上がってくる。当社としては、コンピューターサイエンスとの組み合わせによって研究や社会実装が早まる分野や領域に注目している。また、日本の市場だけを狙うのではなく、始めから世界の市場を狙ってほしい。
日本のディープテック支援環境は良くなってきている。特に大学のベンチャーキャピタルが大きくなっているのは良い点だ。それでも、まだ資金や企業の数が足りないのではないかと感じている。
東京以外からも成功例を作る
リアルテックホールディングス(東京都墨田区)グロースマネージャー山家創氏国内のベンチャー投資の多くはITに偏っていたが、近年はその流れに変化も見えてきた。ディープテック領域のハードを中心に開発するベンチャーでも、数億単位の調達が増えてきた。調達が上手くいく企業には、経営チームの構築と事業化までの道のり、事業会社からの投資の3点が重要であると感じている。
特に大学発ベンチャーであれば、研究開発に強い反面、事業化を先導できるメンバーが不足している。起業初期はそれでも問題ないが、規模が拡大する上ではこの点は重要だ。技術に思い入れがあるほど、事業的な判断を下すことが難しいのではないだろうか。やはり経営と技術は違う人物が担当する方が望ましい。また、ベンチャーキャピタル(VC)からの調達だけでなく、事業会社からの投資もあるべきだ。事業会社からすれば、自社とのシナジーや市場性があると感じるからこそ投資をする。それは資金調達や事業展開において大きな信用になる。
投資の基準としては、技術の確かさとマーケットの広さを考慮に入れている。ディープテック分野は技術難易度が高く、専門的な知識が求められる。そこで、ファンドマネージャーは研究開発職などの勤務経験のある知識的背景を持った人物が判断している。
なお、ベンチャー投資は圧倒的に東京に拠点を置く企業の割合が大きい。だが、当社の国内1号、2号ファンドの投資先の約6割が東京以外に拠点を置いている。そこで、3号ファンドには地域の金融機関が参加し、より地域のベンチャーに注力する体制を築いた。
そこで力を入れるのが、地域の中堅、中小企業とベンチャーの協業だ。ハード系のベンチャーにとって量産技術のハードルは高い。そこで、中小企業の持つ生産技術を活かし量産化を早める構想だ。地域の中小企業にとっても、新しいイノベーションを自社に取り込みブレイクスルーを起こしたい。この関係性はウィンウィンだ。実際、当社も出資しているU-MAP(名古屋市千種区)は素材量産について、特殊ガラスを製造する岡本硝子と連携している。
これは大企業が中心になってきたオープンイノベーションを広げるものだ。「東京が本社ではないから、ベンチャーは難しい」という常識を打ち破りたい。
この連載では、「ディープテック」と呼ばれる先端テクノロジーの事業化を目指す企業を掲載します。
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