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時代の要請に応える。「アナログ半導体」メーカーたちの挑戦

時代の要請に応える。「アナログ半導体」メーカーたちの挑戦

エイブリックが開発したバッテリーレス漏水センサー

「微小な電力を蓄積・濃縮して無線通信を行う」「自動販売機やエレベーターのボタンに直接触れずに操作できるようにする」―。暮らしを変える製品の開発にアナログ半導体メーカーが取り組んでいる。直近の世界市場規模は550億ドル(約6兆円)と、半導体全体の15%ほど。だが多様で複雑な信号を処理し、装置(デバイス)を緻密に動かすことができるアナログ半導体の特性を用い、「低電力消費」「非接触」など、時代の要請に応えようとしている。(山田邦和)

エイブリック、電池不要で水漏れ検知 メンテ、大幅に省力化

アナログ半導体は、音や光、温度、人の心拍など、連続しており数値化されていない情報(アナログ信号)をコンピューターで処理できるデジタル信号に変換したり、逆にデジタル信号をアナログ信号に変えたりする。

スマートフォンやデジタルカメラ、自動車用モーターの駆動制御装置など幅広い分野で使われる。電圧をオンとオフだけではなく「やや高め、やや低め」など、きめ細かく制御できるアナログ半導体がなければ、自動車は状況に応じて適度に減速したり加速したりすることが困難となるほか、急ブレーキをかけなければ止まらなくなる。生活の安全や快適を高めるのに不可欠な半導体と言える。

セイコーホールディングス傘下のセイコーインスツルから分社化し、2020年にミネベアミツミのグループ企業になったアナログ半導体メーカー、エイブリック(東京都港区)が現在、注力するのが「クリーンブースト技術」だ。金属の酸化などの際に起きる電子のやりとり(酸化還元反応)で生じた微小な「電力」を蓄電し、アナログ半導体で昇圧。電池を使わずに無線発信ができる。

製品化の一例が、ベンチャー企業のテクサー(東京都港区)と共同開発し、今年発売した水漏れ検知キットだ。キットの中核であるセンサーをエイブリックが担当した。2種類の金属を織り込んだセンサーのリボン部分に水滴がかかると生じる電力を使い、無線タグから電波を発信。テクサーのクラウドサービスが、漏水の発生時間や位置を通知する。

雨漏りや漏水によって水分が建物内に浸入すると建材の劣化や設備の故障につながるため、早期に発見して補修する必要がある。ただ、これまでの漏水検知システムは大掛かりな配線工事が必要だった。電池の交換などセンサー自体のメンテナンスに手間がかかるのも課題だった。

テクサーとエイブリックの水漏れ検知キットは、検知したい箇所に取り付けるだけで済む。電池不使用なため、メンテナンスも大幅に省力化できる。

金属が水に触れることで発生する電力は、ぬれた面積にもよるが数十マイクロワット(マイクロは100万分の1)程度。クリーンブーストは、この微弱な電力を蓄積・増幅して、無線で使える電力に昇圧する。クオーツ時計で培った技術を用い、センサーから入ってきた電力を検出する「電圧検出回路」を、0・1ナノワット(ナノは10億分の1)の電力で動くようにすることで、蓄積を可能にした。

水漏れセンサーだけにとどまらない。土壌中の水分や、人の汗で動作するセンサーの開発も理論的には可能だ。親会社のミネベアミツミは現在、無線通信で点灯や消灯、照度を管理できる「IoT街路灯」に温度や湿度、気圧を測れるセンサー技術を提供して、インフラ分野への本格参入を目指している。クリーンブースト技術を今後応用できれば、電源のない場所にも雨量計や温度・湿度計を取り付けることができ、ビジネスの可能性が広がる。エイブリックではクリーンブースト関連製品で、2025年に30億円以上の売り上げを目指す。

新日本無線、ボタンを非接触で操作 ウイルス感染防止期待

新日本無線(東京都中央区)は日清紡グループのアナログ半導体メーカーとして、センサーが捉えた光や気体や圧力などの微小な信号を、メインのICが取り扱える大きさに精度良く上げる演算増幅器(オペアンプ)向けなどで強みを発揮してきた。2022年1月には同じ日清紡グループのリコー電子デバイス(大阪府池田市)と統合し、新会社の日清紡マイクロデバイスとして新たなスタートを切る。

新日本無線が力を入れる製品の一つがアナログ半導体を使った小型の光学式センサーモジュール。自動販売機や現金自動預払機(ATM)、駅の発券機などの操作ボタンに組み込んでの使用を想定する。

操作ボタンに指を近づけると、モジュールから出た赤外光が指で反射され、再びモジュールに戻る。この赤外光を検出することで、操作ボタンに触れなくても押したのと同じ効果が出せる仕組みだ。複数のボタンが並ぶ場合、ボタンごとに赤外線を発するタイミングをずらすことで隣り合うボタンが誤って反応することを防ぐことができる。

新型コロナウイルスの感染対策効果が期待できる。まずは国内の自動販売機や電気機器のボタンを手がけるメーカーに販売し、海外にも販路を広げる。2022年度に売上高2億円、24年度に20億円を目指している。

アナログ半導体(新日本無線提供)

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日刊工業新聞2021年8月18日

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