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アナログ半導体各社、いざ名古屋へ。車載狙い顧客に近く

 アナログ半導体各社が相次いで名古屋市に進出している。エスアイアイ・セミコンダクタ(千葉市美浜区)やトレックス・セミコンダクターは今春以降、営業拠点を開設。2日には、リコー子会社のリコー電子デバイス(大阪府池田市)が拠点を設けた。各社は自動車市場を次の成長の軸に据える。名古屋は自動車サプライチェーンの一大集積地であり、拠点開設で顧客との関係強化を狙う。

 リコー電子デバイスは名古屋市西区に「名古屋営業所」を開設した。これまでは東京や大阪から営業に出向いていたが「顧客に、より近い場所で活動できる体制を整えた」(広報関係者)。密な体制で営業や技術サポートを行って関係を強化し、最重要分野である自動車に加え、産業機器や医療機器の分野でも事業を拡大する。現在、三つの分野の売上高比率は合計で約40%だが、2019年度に45―50%に引き上げる。

 エスアイアイ・セミコンダクタは4月に名古屋市中区に拠点を新設した。営業や販売に加えて、設計などの技術サポート機能を設置。技術部隊と営業部隊が連携することで、電源ICやメモリーなどの製品を中心に、よりニーズをとらえた提案につなげる。「車載事業の足がかりをきちんと作り、市場に入り込む」(石合信正社長)と話す。車載事業の売上高比率は2割程度。今後3―5年程度かけて、その比率を高める方針だ。

 トレックス・セミコンダクターが名古屋市中区に電源ICの営業拠点「名古屋営業所」を開設したのは6月。主力の電源ICは低消費電力・小型・低ノイズを得意とし、家電やパソコンなどに用いられている。今後は他社とも提携し、中・高電圧域の製品ラインアップを拡充。自動車向けに事業領域を広げ、16年度に15・8%だった自動車向けの売上高比率を引き上げる計画だ。芝宮孝司社長は「自動車に加え、産業機械や医療機器の需要も開拓したい」と力を込める。ロボットや遊興施設向けの需要開拓にも意欲を見せる。

 一方、アナログ半導体以外でも名古屋に進出する動きはみられる。FPGA(プログラミングすることができるLSI)を手がける米ザイリンクスは、5月に名古屋オフィスを開設。自動車や産業機器向けの提案強化が狙いだ。高度運転支援システム(ADAS)に使われるカメラやレーダー、LIDAR(ライダー=光検出測距センサー)、センサーフュージョン向けの分野では、グローバルで15年度に19メーカー64車種に採用され、16年度には23メーカー85車種まで増加した。日系メーカーも含めて、自動運転向けの受注獲得を拡大する。

 自動運転技術の普及に伴い、車載向け半導体の搭載比率は確実に増加する。各社は顧客に近い場所に拠点を構えることで関係性の強化を図り、事業拡大の地盤とする。成長領域での攻防が、より激しくなりそうだ。
(文=政年佐貴恵、名古屋編・村国哲也)
日刊工業新聞2017年10月18日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
日系アナログ半導体メーカーが、自動車市場の取り込みに向け体制を強化する動きが鮮明になっている。自動運転やEVなどの登場で自動車産業の構造が変わりつつある中、シェアを取るにはこれまで以上に顧客と密接な関係を築き、ニーズを吸い上げて開発から一緒に進めることが必要だ。日系アナログメーカーは小粒な所が多く、製品や技術力の特徴別に市場を分け合っている状況。一方で規模の大きな海外勢も、日系OEMやティア1との関係強化に動いている。リコーのアナログ半導体事業の売却が取りざたされているが、市場環境の変化で本格的に再編気運が高まるのかも焦点になりそうだ。

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