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年1500万本のハンガー焼却を回避。岐阜の中小企業が大企業の環境課題解決で掴んだ商機

年1500万本のハンガー焼却を回避。岐阜の中小企業が大企業の環境課題解決で掴んだ商機

回収した使用済みハンガーを選別(FYSのリサイクルセンター)

FYS(岐阜市、古池邦夫社長)は洋服の納品に使うハンガーをリユース(再利用)やリサイクルする。売り場から使用済みハンガーを回収し、品質に問題がなければアパレルに提供する。破損などが見つかれば粉砕してペレット化し、ハンガーに再成形する。ハンガー材料であるプラスチックの消費を抑える同社の独自システムであり、2019年に「APRES」と名付けた。

イオンリテールがハンガーのリサイクルを検討したことがきっかけだった。各売り場で取引するハンガーはメーカーや素材がバラバラであるため再利用できず、焼却処分する場合が多かった。また、廃棄ハンガーの運搬には行政の許可が必要なため煩雑となる。解決策として都道府県をまたいで廃棄物を回収できる「広域認定」制度が浮上し、15年にFYSが認定を取得。イオンリテールからハンガーを回収し、アパレルへ戻す資源循環をFYSが構築した。

店舗は法規制を順守しながら環境配慮をアピールできる。FYSが依頼した業者がハンガーを回収するので、店舗は保管などの手間も省ける。

ハンガーメーカーであるFYSも本業で利点がある。回収するのは同社製ハンガーなので、納品に使うハンガーも当然同社製になり、売り上げの拡大につながる。

現在、ワールドや平和堂など16社・事業部がAPRESを採用しており、最大で年1500万本のハンガーの焼却を回避できるという。FYSの井口洋執行役員は「過去は価格が基準だったが、今は環境面でハンガーを選んでもらえている」と変化を感じる。国内の衣料品市場は縮小傾向だが、APRESを展開する同社にはシェア拡大のチャンスという。従業員30人の中小企業が大企業の環境課題解決に貢献して商機をつかんだ。

井口執行役員は「1―2年後にはハンガーをリサイクルしないと恥ずかしくなるのでは」と見通す。そして「地元の岐阜県でハンガー廃棄ゼロを実現したい」と意気込む。

日刊工業新聞2021年8月6日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
廃棄が当然だと考えていたハンガーのリユースを紹介しました。いま政府はプラごみ削減に向けて国民に行動変容を呼びかけていますが、企業にも商習慣の変容を呼びかけても良いでしょう。「脱プラ」、十分に着用されないまま大量廃棄される「ファッションロス」、中小企業が課題解決の提供によって大企業と取引するビジネスチャンス獲得と、多くの要素がつまった取材でした。

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