「廃プラ根絶「“有害な補助金”減額」…国連が掲げた生態系保全・新目標は企業活動を左右する
国連の生物多様性条約事務局が生物を守る新しい世界目標の原案を公表した。21個の目標があり、事業が与える生態系への影響の半減を迫るなど企業活動も左右しそうだ。新目標は10月に中国・昆明市で開催される生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で正式に決まる。(編集委員・松木喬)
新目標は2020年が期限だった「愛知目標」の後継となる。20年中にCOP15を開いて採択するはずだったが、新型コロナウイルスの大流行によって延期されていた。
生物多様性条約事務局は20年1月、「ゼロ・ドラフト」と呼ばれる新目標の草案を公表し、すでに各国代表やNGO関係者が議論を重ねてきた。今月12日に公表された原案は「一次ドラフト」の位置付けで、合意に向けた土台となる。ゼロ・ドラフトで話題となった「30年までに生物多様性の損失をゼロにする」という意欲的な目標は消えたが、「野心度は維持している」(環境省担当者)という。またゼロ・ドラフトで20個だった目標は21個に増加。数値目標が目立ち「議論は前進した」(同)とみている。
例えば、目標7には「環境への養分流出を半減、殺虫剤の3分の2を削減、プラスチック廃棄物の排出を根絶」と並んでおり、殺虫剤メーカーや農業、プラスチック製品を扱う企業に影響が出そうだ。
目標15には「すべてのビジネスが生物多様性に対する依存状況と影響を評価・報告し、負の影響を少なくとも半減」と盛り込まれた。中小企業にも対応を求めるが、「影響を測定する指標が定まっていない」(同)のも事実。気候変動対策では二酸化炭素(CO2)排出量の削減が目標となるが、生態系への影響は定量化しづらく、数値目標の設定が難しい。
一方、23日までイタリアで開かれた主要20カ国・地域環境・気候・エネルギー閣僚会合は共同声明で、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に言及した。TNFDは国連開発計画などによって6月に設立され、企業に生物多様性に関連した情報開示を求める議論を始めたばかりだが、国際社会では注目度が高い。
他にも目標18で生物多様性に有害な補助金を「少なくとも年5000億ドル減額」と明記した。気候変動対策では石炭火力発電の建設を支援する補助金を制限する動きが広がったように、生態系の損失を助長する補助金は見直しが迫られる。
8月にはCOP15に向けた準備会合が開かれる。その場で「資金などの数値目標の根拠を把握する」(環境省担当者)予定だ。特に資金は先進国と途上国が対立する火種となる。原案では保全対策として年2000億ドル、途上国支援として年100億ドルが記載されており、今後の交渉を左右する。
気候変動対策では15年に「パリ協定」が採択されると、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする脱炭素が潮流となった。生物多様性でも新目標が企業のビジネスを大きく変革する可能性がある。