クジラやイルカの鳴き声を記録できる。東大が開発した深海用マイクがスゴイ
東京大学の増田殊大特任研究員らは、周波数25―30キロヘルツと幅広い音を測定できる深海用マイクを開発した。水中ロボットに搭載することでクジラ(同50ヘルツ)やイルカ(同数キロヘルツ)の鳴き声など幅広い音源を記録できる。これまでに水深600メートル相当の水圧まで耐えることを確認した。生態系観測や音響測位、音響通信など向けに提案する。今後は、企業と組んで実用化を目指す。
微小電気機械システム(MEMS)製のマイクを耐圧防水樹脂で封止した。水蒸気や海水の塩分を遮断して半導体を守る。現行品はチタン酸ジルコン酸鉛セラミックを利用したものが多く、衝撃に弱く、信号の増幅が必要だった。MEMSマイクを耐圧防水仕様にすることで専用のアンプなどが不要になり、装置が大型にならない。USB接続で手軽にシステムを構築できる。
実験では耐圧水槽で加圧しながら計測したところ、周波数応答性は変わらなかった。マイクの中の空気スペースが小さいため、気圧が変化してもマイクの特性に影響がなかったとみられる。周波数35キロヘルツまでは入力波形を再現できる感度を確認できた。水圧テストでは6・5メガパスカル(メガは100万)付近で破壊された。これにより、水深600メートル程度までは耐えられる。
クジラの低音やイルカの高音に加え、同数百ヘルツから数キロヘルツで響く船のエンジン音なども対応できる。マイクアレイを組めば方向なども判別できる。水中生物観測に加え、違法操業の漁船の検知など幅広い観測に使える。
水中では電波が使えないため音響で観測も通信も行うことになる。そのためマイクが広帯域だと周波数帯の使い分けがやりやすくなる。
日刊工業新聞2021年7月6日