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「女子大だからできる教育」とは何か。お茶大の新学長が示したダイバーシティーへの期待

佐々木泰子氏インタビュー
「女子大だからできる教育」とは何か。お茶大の新学長が示したダイバーシティーへの期待

公式ツイッターより(写真はイメージ)


女子大学にとってダイバーシティー推進のうねりはチャンスと言える。人材ニーズの高い情報・データサイエンス(DS)における産学・社会連携も女性活躍の後押しになる。こうした流れを受け、お茶の水女子大学の佐々木泰子学長に「女子大だからできる教育とは何か」を聞いた。

―女性リーダー育成は共学の大学でも力を入れています。

「本学では教員の約半数が女性でロールモデルが身近にいるため『私もやってみよう』と挑戦し、『自分はできる』と自信を付ける機会が多くある。連携する他大学などには、女性教員の比率の高さなど『お茶大だから(可能なだけ)』と線を引かず、『お茶大とともに』変わっていこうと呼びかけたい」

―最近、よく耳にする「ジェンダード・イノベーション」は、研究開発に性差の視点を取り入れたものですね。

「車のシートベルトの例が有名で、開発現場が男性だけでは妊婦が使う場合の問題点が思い浮かばない。製品デザインや研究開発の場に、女性が多く入りリーダーになる必要がある。女子の理系進学増には親世代の意識改革も重要で、その切り口でも本学が果たす役割は大きい」

―約20社の企業と学生が連携して女性活躍推進について考える「社会連携講座」の成果はいかがですか。

「参加企業は各業界1社ずつで、社会人と学生が同席しての議論は刺激が大きい。ブリヂストンとの未来起点ゼミは付属高校から大学院までの女子生徒・学生が15年後の社会を考える。ほかにも積極的にアイデアを出すなど、ここ数年で学生の姿勢が変わってきた。3年目の本年度はインターンシップ(就業体験)で新たな成果を引き出したい」

―ITやDSの分野でも女性が活躍できるような教育に力を入れています。

「情報系企業との産学連携で日鉄ソリューションズの寄付講座や、アバナード(東京都港区)の奨学金などができた。2023年度にDS・人工知能(AI)の活用と人文科学などを学ぶ『共創工学部』を設ける。言語や舞踊、地理などのデータ分析で、AIの偏見助長を防ぐジェンダーの視点を入れる。高校の情報科目の必修化などを受け、この分野に関心を持つ女性の人材育成を後押ししたい」

【略歴】ささき・やすこ 78年(昭53)お茶の水女子大院人文科学研究科修了(文学修士)。93年同(人文科学修士)、同年助手、97年文教育学部講師、00年助教授、07年院人間文化創成科学研究科教授、16年副学長、19年理事。山口県出身、67歳。

【記者の目/世界と向き合う人材育成期待】
佐々木学長の専門は社会における言語の使われ方を研究する社会言語学。国際交流や留学生支援の経験が豊富で、ダイバーシティーの重要性も感じてきた。室伏きみ子前学長が得意としていた産学連携を受け継ぎ、自身が目標とする「世界の課題に向き合う人材育成」に向けたかじ取りに期待したい。(編集委員・山本佳世子)

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日刊工業新聞2021年6月17日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
ダイバーシティー推進において、共学校は性別においてフラットで一見するとよさそうだ。が、教育系の論文などでは、共学ではジェンダーの社会のありようをそのまま持ち込んでしまい、男女格差が固定化されるという研究がいくつもあると聞く。人工知能(AI)の判断が、社会の差別をそのまま、むしろ助長してしまう問題点と重なるものだ。女子大、特に税金を使う国立大は「いつかなくなるもの」かもしれないが、今しばらくは「女子学生を伸び伸びと育てつつ、社会のゆがみを意識的に正していく」存在として頑張っていってほしい。

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