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福岡歯科大で活躍する患者型ロボット、実習で「容体急変」の動きを再現!

福岡歯科大で活躍する患者型ロボット、実習で「容体急変」の動きを再現!

成人型患者ロボット

福岡歯科大学は2013年に成人患者型ロボットを導入し、緊急時の対応を疑似体験する危機管理実習に活用している。20年には小児患者型を追加し、子どもに特有の状態も体験できるようにした。「口腔(こうくう)医学」を掲げ、口腔の健康を通して全身の健康を守るという、同大学の理念に沿った教育の進展に患者ロボットが貢献している。(西部・関広樹)

患者型ロボットの目的の一つは実習の臨場感を高めること。導入前はマネキンと呼ばれ現在も使われる頭部だけの模型を使っていたが、実際の治療としては不自然な姿勢をする学生が見られた。そこで体もあり、話しかけて口を開けてもらうような自然な反応をできるロボットを使うことで、歯科医としての振る舞いや処置の流れを意識しやすくした。

ロボットによる実習は学内協力を促進させる役割もあった。福岡歯科大には、幅広い診療科を擁する医科歯科総合病院がある。教員には内科をはじめ外科や整形外科など、さまざまな専門医がいる。ロボットには、医師が連携する教育の核となることが期待された。

連携した教育で実績を重ねているのが緊急時対応の実習だ。学生は歯科治療中の患者の体調の急変を疑似体験する。必要な措置を内科の教員が手順を追って教育し、実習のためのシナリオも作った。

学生はシミュレーションソフトが表現する脈拍や心拍数、心電図の変化を見ながら適切な対応を確認する。注意深く変化をキャッチすることにも意識を向けなければならない。場合によっては心臓マッサージや自動体外式除細動器(AED)の使用手順も確かめる。

実習ではチームワークも学ぶ。歯科医役の学生が、他メンバーに応援を頼み、患者の変化を記録する作業などを指示する。

尾崎正雄教授は「患者の容体急変に歯科医でもパニックになる可能性はある。苦しがる動作などをロボットに演じてもらうことで現実に近い経験ができる。まれな事態に対処できる心の余裕を持てることが大事」と話す。

実習に参加した学生からは「実感が湧いて覚えやすい」と好評だ。また教員の連携についても「医科と歯科の先生の距離が近くなった」(尾崎教授)という。成人型は現在、2体を運用する。

小児型患者ロボット

小児型の導入は1体。治療を嫌がって泣いたり暴れたりなど歯科患者の子どものように顔や手足が動く。緊急時の実習に対応した子どもならではの様子の変化もロボットは表現できる。子どもは苦しさなど自身の状態を言葉で表現できないため、医師が意識や呼吸、顔色の変化など状態を見て判断しなければならない場合が多い。ロボットは目の動きや瞳孔、けいれんの仕方についても実際の動きを再現する。

声のかけ方や治療器具を見せないなどの配慮も子どもには特に重要。動く子どもを押さえるなどの協力を求めることも必要になる。ロボットへの対応を見ることで「学生の素質も見られる」(同)という。

日刊工業新聞2021年6月17日

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