「エンジンのホンダ」が示した覚悟、祖業を捨てても叶えたい夢
ホンダが稼ぐ力の回復に向け、構造改革に大なたを振るう。生産体制を見直し不採算車種を絞り込むほか、栃木県真岡市の4輪車エンジン部品工場の閉鎖を決めた。並行して、国内の自動車会社として初めて世界で販売する全ての新車を2040年に電気自動車(EV)もしくは燃料電池車(FCV)に切り替えることを表明。新たなホンダ像の確立に向け、4輪事業の収益力強化と脱炭素化の両立を急ぐ。(江上佑美子、栃木支局長・小野里裕一、群馬・松崎裕)
電動化にカジ
「ホンダが本気で電動化にカジを切った」―。ホンダと取引のある栃木県の部品メーカー首脳は、改革の熱量を肌で感じる。ホンダが25年に生産停止する真岡市の「パワートレインユニット製造部」では、クランクシャフトなどのエンジン部品を生産しており、従業員は約900人。周辺の自治体からも「隣県であり、人ごとではない。これだけの部品工場を閉じるのは、インパクトの大きい話」(群馬県の鬼形尚道産業経済部長)と驚きの声が上がる。
ホンダに部品を供給するメーカーは対応を急いでいる。自動車用ダイカスト金型部品などを製造するメーカーの社長は「当社の製品はエンジンを製造するための金型に多く使われているため、一般論として(電動化への移行で)使用量は減るだろう。他社との競争が激しくなる」とこぼす。EV関連の部品の受注増で、生き残りを図る方針だ。
ホンダ系の大手サプライヤーにとっても“脱エンジン”対策は急務だ。ジーテクトはEV向けのプラットフォーム(車台)やバッテリーハウジングの開発を進めている。高尾直宏社長は「ホンダを含め日本の自動車メーカー全体が電動化に進んでおり、我々もカジを切る」と説明する。
エンジン向けのカムシャフトやトランスミッションギアを生産する武蔵精密工業の大塚浩史社長は「電動化の時代が加速するのは間違いない」として、電動化を見据えた次世代パワートレーン開発などに取り組む。「電動化は(武蔵精密工業の)トップライン(売上高)にはプラス」と前向きに捉える。
樹脂製燃料タンクを手がける八千代工業の加藤憲嗣社長は「25年ごろをピークに需要が下降する」と予測した上で、「ホンダが示した電動化の目標に関しては、既に織り込み済み。電動化までの残存益を最大化すべく、効率的なリソース活用とともに、新たな収益基盤の構築を進める」と強気の姿勢を貫く。
聖域なきリストラ
ホンダはエンジン部品工場閉鎖について、4輪車の生産体制見直しの一環だと説明している。同社の課題の一つが、4輪事業の利益率低迷が続いている点だ。21年3月期は2輪事業の営業利益率が12・6%であるのに対し、4輪事業は1・0%にとどまる。競合のトヨタ自動車の約8%、独フォルクスワーゲンの約4%と比べても見劣りする。
八郷隆弘前社長は4輪事業の体質強化に向けて生産効率化や生産能力の適正化に取り組み、狭山工場(埼玉県狭山市)や英国工場などの閉鎖を決めた。三部敏宏社長も4月の就任会見で「台数ありきの戦略を立てる予定はない。目標は持つが、拡大戦略は採らない」と強調した。
21年度中に狭山工場の完成車ラインを寄居工場(同寄居町)に集約するのに伴い、車種構成も見直す。8月に中型セダン「クラリティ」、12月にミニバン「オデッセイ」と高級セダン「レジェンド」の国内生産を終える。これら3車種は狭山工場で生産しており、販売台数の減少などを反映して決断した。
次の夢「宇宙」
ホンダは50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現を目指すと20年に宣言した。40年の“脱エンジン”の目標について、三部社長は「50年にカーボンニュートラルを達成するためには、40年には新車から出る二酸化炭素(CO2)をゼロにしないといけない」と強調する。EV、FCV以外の技術が加わった場合には活用する方針も示した。
“エンジン車ゼロ”を掲げたのは日系自動車会社では初めて。「中長期の電動化のピースは現時点で全て埋まっている訳ではない」とした上で、「ホンダはチャレンジングな目標にこそ奮い立つ人が集う会社。目標を明確にしたのはその第一歩」と力を込める。
三部社長が次の夢の一つに掲げるのが「宇宙」だ。14日には子会社の本田技術研究所が宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、宇宙生活を視野に、酸素や水素、電気に関する循環型再生システム構築に向けた検討に乗り出したと発表した。ホンダの持つ燃料電池や水電解関連の技術が生かせると判断した。同研究所の針生栄次先進パワーユニット・エネルギー研究所チーフエンジニアは、「単に挑戦するだけではなく、この事業で磨いた技術を、地球上のサステナビリティー(持続可能性)にも役立てたい」と構想を描く。
今後6年間で、未来に向けた仕込みや環境、安全に関する取り組みのため、「売上高の増減に左右されず」(三部社長)計5兆円程度を研究開発費に投じる方針だ。21年度の研究開発費は過去最高となる8400億円の見通しだ。
オンラインセミナーのご案内
ニュースイッチでは、全固体電池に関連したオンラインイベント「全固体電池入門の入門 第2回 ビジネス視点で解説 自動車業界へのインパクト」を開催します。
講師はホンダでリチウムイオン電池の開発に携わり、その後、サムスンSDIの常務として電池事業の陣頭指揮をとり、現在は名古屋大学未来社会創造機構客員教授でエスペック㈱上席顧問を務める佐藤登氏です。
昨年には「電池の覇者 EVの運命を決する戦い」(日経新聞社)を上梓、業界に最も精通する同氏と、日刊工業新聞の自動車担当記者が「ここだけの話」をします。
2021/7/2(金) 14:00 ~ 15:30
<<申し込みはこちらから>>
一般 :¥5,500(税込) 前回参加者 :¥4,400(税込)
※前回(5月21日)参加された方は、特別料金(1,100円割引)にてお申込いただけます。お申込方法は、別途お送りしているメールをご確認ください。
申し込み締切
2021年7月1日(木)12:00