東大が他大学に先駆けて総長・理事の過半数を女性にした理由【新総長インタビュー】
大学への期待が高まる一方、多くの課題が山積している。デジタル変革(DX)や国際化、研究開発力の向上、収束が見えない新型コロナウイルスへの対応もある。こうした対策を踏まえて、どう大学としての個性を発揮するのか。新年度に就任した各大学トップに大学変革の方針などを聞いていく。
トップの任期が6年間と他の国立大学と比べ長い東京大学。藤井輝夫総長は理事時代に“大学が社会変革を駆動する”仕組みの整備に関わり、今度は「我々が具体的な成果を創り出す」と強調する。6年間の始動に当たって意気込みを尋ねた。
―策定中の基本理念に「ダイバーシティー&インクルージョン」を掲げ、総長・理事の過半数を女性にしました。
「さまざまな意見により質の高い取り組みを見いだす上で、ダイバーシティーが重要との意識があった。ただ、女性割合を高めることを目的にしたのではない。多様な視点で仕事をするのに最適な体制を考えた結果だ」
「基本理念の中で最も重視する『対話と共感』は学内外に向けたものだ。学外からは産学協創や寄付などで資金を集めて成果を出し、それを対話により示して共感を得て、次の大きなサイクルにつなげていく」
―オンラインによる教育・研究効果を狙う「グローバルフェロー制度」も対話と共感がカギとなりますね。
「コロナ禍でリモートワークに慣れたのを機に、著名な外国人研究者に単位付与を伴う講義や研究指導、セミナーにオンラインで関わってもらう。以前からの人的ネットワークにより、相互に強い信頼関係がある相手であれば、来日が不要なのでかなり多忙でも協力してもらえる」
―昨年秋に発行した大学債200億円の一部を次世代のニュートリノ観測装置「ハイパーカミオカンデ」の整備に活用します。
「大型研究プロジェクトは国の計画に沿って進められる。しかし競争が激しい中、基礎研究の国際戦略として、自己努力で先行投資することで国の理解を促したい。(同装置が建設される)岐阜県飛騨市は大学債の購入に加え、ふるさと納税の一部を宇宙線研究所の若手研究者の育成に充ててくれるなど、良い関係を築けている」
―東大関連のベンチャーは累計400社以上で起業も年30―40社あります。学生マインドの変化に驚きです。
「学生の間には『社会のために何かしたい』『やるべきことがあるなら自分でやろう』との思いが芽生えている。身近な先輩の成功事例を目にし、ITや人工知能(AI)のビジネスチャンスも高まっている。起業家教育、投資資金、インキュベーション施設など、大学が多様な形で背中を押していきたい」
【略歴】ふじい・てるお 93年(平5)東大院工学系研究科博士課程修了、同年東大生産技術研究所客員助教授。07年教授。15年所長。18年副学長。19年理事・副学長。東京都出身、57歳。
【記者の目/“大学の手本”ノウハウ伝授を】
大学債発行などの新機軸は、なかなか他大学でまねできないものだ。総長・理事の過半数を女性にするという決断も国立の総合大学で先駆けとなった。ただ、こうした取り組みを東大だけにとどめるのは惜しい。学外との“対話と共感”でノウハウを伝え、大学の手本として社会の期待に応えてほしい。(編集委員・山本佳世子)
日刊工業新聞2021年5月24日
就任後の初会見で語っていたことは?
東京大学の藤井輝夫総長は17日、4月の就任後初となる記者会見を開き、同大関連の大学発ベンチャー(VB)を2030年に700社、外部ベンチャーキャピタル(VC)などから引き出す投資は1兆円の目標を掲げた。産学協創・社会連携を率いてきた経験を生かし、知・人・場を創造する公共的な大学の経営を目指す。
策定中の行動指針案では「対話と共感」を重視。「社会の多様な組織に橋をかける存在になる」と強調した。具体例として半導体分野で台湾積体電路製造(TSMC)、量子技術で米IBMとの大型連携を、それぞれ国内24社、10社のコンソーシアムなどとつなぐ活動を示した。
同大関連VBは現在、東大のファンド子会社などから約300億円、これを呼び水に引き出した外部資金は約3000億円に上る。「課題は国際化。起業の当初から視野を広く世界に設定することで、資金規模は高まる」とした。
学生に対しては地域や海外など現場に出て行く教育プログラムを通じ、学びの社会通用度の把握とキャリア思案を呼びかけた。「変化の激しい時代に、社会のために何かしようという人の背中を、さまざまな形で押していきたい」と力説した。