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東大が7月開設、1億2000万円を集めた「起業家教育」寄付講座の中身

東京大学大学院工学系研究科は7月にアントレプレナーシップ(起業家精神)教育の寄付講座を開設する。寄付金の総額は3年間で1億2000万円。KDDIや人工知能(AI)技術の研究を手がける同大の松尾豊教授に関連するベンチャー(VB)支援会社などが資金と講義で協力する。モノづくりや海外進出など大学発VBの課題解決を後押しするとともに、学内に多く持つ教育プログラムを統合し起業家教育の効果を引き上げる。

寄付講座の名称は「アントレプレナーシップ教育デザイン寄付講座」。7月1日付で開講する。例えば産学連携教育であれば東大の教員が戦略的会計を講義する。ベンチャーキャピタル(VC)関係者が投資の契約交渉について教えることもある。教育関連の講座では、かなりの寄付金規模になるという。

同大発VBは400社以上あり、学生発を含めて工学系が多い。しかしモノづくりや環境・エネルギー、化学・素材の分野が少ないため、研究成果などの強みを生かし切れていない。そこで同大の技術経営(MOT)研究者とVB実務者がケーススタディーで研究し、同分野の起業モデルを確立する。また、学生が起業前から世界市場を視野に入れられるよう、海外で成功した起業家の講義をオンラインで行う。

同大は「アントレプレナー道場」やデータサイエンス分野、留学生向け、国の事業との連動などの起業教育を実施してきた。これらを新講座を通じて統合し、レベル別コースの整備や起業家コミュニティーとの連携などを図る。

新講座はKDDI、VB支援の経営共創基盤(東京都千代田区、村岡隆史社長)、VCの東京大学エッジキャピタルパートナーズ(同文京区、郷治友孝社長)、松尾研究所(同、川上登福社長)からの寄付で運営される。

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日刊工業新聞2021年5月13日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
寄付講座は研究型の場合、複数の専任研究者の雇用で人件費がかかるため、年数千万円というケースが少なくない。しかし学生に授業を行う科目設置の教育型だと、講師は大学人・企業人とも兼務となり、人件費がフルに発生しないため、金額は小さいのが一般的だ。そのため今回の金額に驚いた。まだ用途ははっきりしていないとのことだが、新型コロナが収まったら「学生の海外派遣」などにも使えるだろう。ちなみに工学系研究科は昨年末に「時価総額1兆円の東大発ベンチャー創出」を目標に、これに向けたアドバイザリーボードを発足。メンバーとなった経営共創基盤と、東京大学エッジキャピタルパートナーズの幹部を通じて、両社は今回の寄付講座に参加となった。

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