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大学研究の学際・文理融合、人文系が難しい理由

大学の研究なら学際融合、一般社会でも分野融合の重要性が指摘されるが、実行者はその難しさを口々に唱える。特に人文科学系が入ると違和感が生じる。東京医科歯科大学、東京外国語大学、東京工業大学、一橋大学は、新型コロナウイルス感染症後のニューノーマルへの研究コンソーシアムを設立した。その中で人文科学系の役割が問われている。

研究活動は複雑な現実社会に対し、特定の部分に焦点を当て、それ以外はそぎ落とし、絞り込んで精緻化した理想の環境下で論理や知を導くものだ。人文科学系はこの活動を、個人で行うことを重視するのだと東京外大の中山俊秀副学長(研究担当)は説明する。

時間をかけて思索し、他にない資料を集めてアイデアを育て、独自の世界観を創り出す。小説やアートと同様に同系はこれをより重視するため、単独著作での書籍が、共著や論文よりも業績として高く評価される。同系同士も調査研究の機会を共有したり、つなぎ合わせて全体を眺めるために研究会に集ったりする。しかし終了後は、研究者個人の世界に戻るのだという。

そんな難しさを抱えた同系で融合を促すには「課題が起きている現場に研究者がともに接近することがキーだ」と、中山副学長は言う。例えばコロナ下で高齢者の独り暮らし、飲食店の経営、孤立する大学生などの生々しい現場の話を、同時に聞いた上で異なる切り口で議論する。

これにより同系の研究者の世界観が変わり、それまでなかった何かが生まれるかもしれない。専門を学ぶ途上の学生が加わることも有効だろう。4大学連合は過去20年間、学生交流など教育面の活動を展開してきた。学際融合の新手法を導く挑戦に注目したい。

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日刊工業新聞2021年5月10日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
学術研究(研究者の自発的な関心に基づく研究)の在り方について、文科省の審議会の委員として議論に参加していたときのこと。トップクラスの国立大の役員を務める人文系教員の発言に、目を丸くしたことがある。散会後のエレベーターで同席になった理工系の独法トップ、産学連携に詳しい企業人と顔を合わせ、「驚きましたね」とそれぞれ口にした。それほど人文系の価値観や信念は、普通の理工系の人間には、フィットしない面がある。本記事でその理由の一端を示したが、「融合は面倒だから止めておこう」となってはいけない。「容易ではないがそれだけ意味がある、と心して、粘り強く取り組んでいこう!」ということを多くの人に伝えたい。

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